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A Reduction of the Middle Class in Japan

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Academic year: 2021

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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/

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Title

日本における「中流」の縮小

Author(s)

川東, 英子

Citation

松山東雲女子大学人文科学部紀要. vol.21, no., p.15-39

Issue Date

2013-03-29

URL

http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/3251

Rights

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日本における「中流」の縮小

A Reduction of the Middle Class in Japan

Eiko KAWAHIGASHI

(心理子ども学科子ども専攻) わが国の所得格差は、1980∼2011年に一貫して拡大し、先進国では格差大国アメリカに次ぐ水準となって いる。そしてアメリカでもみられたように、この間、「中流」の縮小が進行した。1980∼1997年の生活水準 の上昇期(所得の増加とエンゲル係数の低下)においても、中流の中と下(第2・五分位と第3・五分位) では所得割合が縮小した。1997∼2002年をはさんで、2002年以降の生活水準の低下期(所得の減少とエンゲ ル係数の上昇)になると、中流の上(第4・五分位)でも所得割合が縮小した。下流と中流の中・下の一 貫した縮小、上流の一貫した増加、そして中流の上の増加から縮小への転換により、中流の縮小が広がり を見せながら、所得格差が拡大したのである。 キーワード:所得格差、五分位階級別収入、所得割合、中流、消費支出、エンゲル係数

[Abstract]

Following the United States, Japan has the largest income differential among the world’s leading countries. As a result, there have been reductions in the middle class, not only in the US but also in Japan. Between 1980 and 1997 as income increased and Engel’s coefficient decreased, the general standard of living rose. However, those in the lower and middle range of the middle class (quintile 2 and quintile 3) experienced reduced income rates. Between 1997 and 2002 living standards remained level. However, in 2002 as income began to drop and Engel’s coefficient to increase, the general standard of living dropped and even the upper-middle class (quintile 4) suffered a reduced income rate. The lower class, middle and lower-middle classes continued to receive reduced income rates. Only the upper class continually had an increased income rate through these years. With the transition from increasing to reducing rates of income for the upper end of the middle class, a reduction of the middle class over all has taken place and income differentials have further increased.

Key words: income differential, yearly income quintile group, income rate, middle class, spending expenditure, Engel’s coefficient

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はじめに

暉峻淑子氏が『豊かさとは何か』1を世に問うたのは、バブル経済真っ盛りの19年であった。1 年代の高度経済成長や、成長率こそ低下したものの日本経済のパフォーマンスの良さで世界にアピー ルした1980年代を経て、物的豊かさを達成したはずの日本において、人々が豊かさを感じることの できない原因を分析し、真に豊かな国を目指すためであった。 ところが、わが国は、1990年代以降、思わぬ方向に転換した。バブル崩壊によるかつてなく深刻 な不況、いつまでたっても明るい景気に戻れない長いトンネルの中に止まり、「失われた10年」、い や「失われた20年」を経験した。この不況を脱するために採用されたのがアメリカ流新自由主義経 済政策であり、規制緩和と市場主義、「小さな政府」の主張であった。 バブル不況後の高い失業率を背景に学生・生徒の就職難が進行したが、その後の雇用法制の相次 ぐ改悪により、若者男性も含めた大量の非正規雇用者が、フリーターとして堆積された。年収200万 円未満のワーキング・プアーも2006年には1000万人を超えた。派遣労働者のような短期雇用契約者が、 契約の打ち切りや雇い止めによって、一気に路上生活者(ホームレス)に転落してしまう日本社会 の危うさも露呈した。 こうして日本社会には、もはや死語となっていたはずの「貧困」、それも「絶対的貧困」が、社会 に広範に存在することを示したのである。生活保護受給者の急増ぶりは、その証左であった。 ただし、このような「生活苦」は、低所得者だけの問題ではなく、次第に、中流・中間層まで含 めて広く浸透しているのではないか、と思われる。 アメリカ流新自由主義経済政策の「元祖」は、いうまでもなく1980年代に政権を担当したレーガ ン元大統領である。「レーガノミクス」と呼ばれる独特の経済政策は、税制改革と規制緩和による競 争の促進などを特徴としている。税制改革により伝統的累進課税制度を解体し、税率のフラット化 により富裕層の減税と「中産階級」と呼ばれる労働者の増税をもたらした。一方規制緩和による競 争の促進は、勝ち残れる一部の企業のみに多くの利益をもたらし、その他大勢には倒産・失業・雇 用不安をもたらした2。このような劇的改革により、アメリカ社会を支えてきた「中産階級」の中に は没落し、下流と貧困に転落した者も多い3 アメリカ社会は1990年代以降、「株価資本主義」とも呼ばれる金融中心の産業構造(「金融立国」) に転換していき、新自由主義経済政策を世界に拡大していった。いわゆる“経済のグローバル化” である。そして、わが国でも1990年代末以降、そのような流れの中で、新自由主義的経済政策がよ り一層推進されていった。アメリカでもたらされた“中流の縮小・没落”が、わが国でも発生する のではないか。いやすでに進行しているのではないか、と思われる。 また筆者は、2009年に、愛媛県労働者の生活意識調査を行った。それによると、年収800万円以下 層の広範な階層で、生活不安が広がっていることが明らかになった4。愛媛県の平均年収は男性で4 ― 16 ―

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万円程度である5。その平均額を大きく上回る所得階層にまで、生活不安が広がっていることに、正 直驚いた。賃金への不安・雇用への不安・資産への不安など、経済的不安材料は多かったのである。 以上のような問題意識から、本稿では、1980年代以降今日にいたる社会構造の変動の中で、所得 格差・格差社会の進行が、低所得層のみならず、中流・中間層にまで広く浸透している実態を明ら かにしたいと思う。 主として『家計調査年報』にもとづきながら、所得格差の拡大を、1980年から1997年までと、1997 年以降2011年までに分けて分析する。97年までの格差の拡大は、低所得層と中流の中と下の所得割 合の縮小をもたらしたが、2002年以降は、中流の上でも、中とともに所得割合を縮小させながら進 行しており、まさにアメリカ並みの格差社会に向かいつつある。 また後半では、消費生活の変化を、消費支出・食費・外食・エンゲル係数の動向に基づき分析し、 低所得層のみならず中流・中間層でも悪化していることを摘出し、あわせて2000年以降の全般的生 活水準の低下も指摘する。 したがって、本稿では、日本社会の「豊かさ」のパラダイムシフトが、喫緊の課題である根拠を 提示する。

第1章

わが国の所得格差の推移

1.所得格差の国際比較 わが国が「格差社会」であると社会問題として取り上げられ始めたのは、2000年代に入り、小泉 政権の明確な新自由主義経済政策が採用されて以降である。しかし所得格差の拡大は、すでに1980 年代から始まっており、ジニ係数の上昇がそれを証明している。ジニ係数というのは、所得分配の 不平等度を示す指標である6。完全平等な場合が0で、格差が拡大すると、次第に1に近づいていく。 ちなみに、2人以上世帯を対象とした年間収入のジニ係数(所得再分配前)をみると、1979年に 0.271であったが、1984年には0.280に、1989年0.293、1994年0.297と上昇し、1999年には0.301となっ ている。ジニ係数はその後も上昇し続け、2004年0.308、2009年には0.311となっている7。このよう にジニ係数は、1980年代から上昇しており、そのスピードは、むしろ1980年代が最も早く、90年代に 速度を落とした後、2000年代に入りやや早まっている8 初めに、わが国の所得格差を、諸外国と比較しておこう。表1は主要国の五分位階級別所得割合 をみたものである。所得割合とは、各階級の所得の全体に対して占める割合のことである。わが国 の場合、1993年∼2008年にかけて、第1・五分位から第3・五分位の所得割合が低下しているのに対 し、第4・五分位と第5・五分位が増加していることが分かる。第1・五分位は1993年の10.6%から 2008年の5.3%へほぼ半減(△5.3ポイント)であり、第2・五分位も14.2%から10.9%へ約4分の1 の大幅な減少(△3.3ポイント)である。それに対し第5・五分位は全所得の3分の1強(35.7%) ― 17 ―

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から4割以上(43.7%)へと8ポイントも増加させている。また第4・五分位も1.6ポイント増加し、 23.6%、ほぼ4分の1になっている。 このように1990年代以降、低所得層の所得割合の急激な減少と高額所得層の急激な増加がセット になって、所得格差の拡大が劇的に進行したのである。 本稿では「中流の縮小」をテーマとしているが、ここで中流というのは、所得の上下20%をのぞ いた中間層のことであり、第2・五分位を中流の下、第3・五分位を中流の中、第4・五分位を中 流の上と呼ぶこととする。 そこで「中流の縮小」という視点でみると、第2・五分位と第3・五分位の中流の下と中では縮 小が継続し定着している。また第4・五分位の中流の上でも2005年以降すでに変化がみられ、縮小 へ転換していることが読み取れる。 ところで大変興味深いことは、2008年のわが国の五分位階級別所得割合が、アメリカの2000年の水 準と酷似していることである。アメリカでは第5・五分位階級(第10・十分位も)の割合が日本以 上に高く、上流階層への所得の集中度がより高いことを示している。しかしそれでも、すでにわが 国の状況が、2000年のアメリカの水準近くにまで達していることは、注目に値しよう。 アメリカで所得格差の拡大が急激に進行したのは、1980年代のレーガン政権期である。1960∼70年 代はすべての所得階層で所得が増加していたのが、1980年代になると、上流階層では引き続き所得 増加がみられるのに対し、中流以下では減少に転じている。1960∼70年代には、第5・五分位で28% 所得が増加し、第1・五分位も20%増加したが、1979∼93年になると第5・五分位では18%の所得増 加に対し、第1・五分位は15%のマイナスとなったのである9 その後もアメリカでは所得格差が拡大し、ジニ係数は、1990年代後半の0.33710から20年には0. 第1 十分 位 第1 五分 位 第2 五分 位 第3 五分 位 第4 五分 位 第5 五分 位 第10 十分 位 ジニ 係数 日本 (1993) 4.8 10.6 14.2 17.6 22.0 35.7 21.7 0.249 (2005) 1.5 4.7 10.5 16.3 24.5 43.9 27.1 0.387 (2008) 1.9 5.3 10.9 16.5 23.6 43.7 27.5 0.376 アメリカ (2000) 1.9 5.4 10.7 15.7 22.4 45.8 29.9 0.408 イギリス (1999) 2.1 6.1 11.4 16.0 22.5 44.0 28.5 0.360 ドイツ (2000) 3.2 8.5 13.7 17.8 23.1 36.9 22.1 0.283 イタリア (2000) 2.3 6.5 12.0 16.8 22.8 42.0 26.8 0.360 スウェーデン(2000) 3.6 9.1 14.0 17.6 22.7 36.6 22.2 0.250 表1.五分位階級別所得割合 資料出所:『データブック国際労働比較』2012年より引用。 ― 18 ―

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へ上昇している。このようなアメリカの後を追うかのように、わが国のジニ係数も1990年代後半の 0.31411が28年には0.6へ上昇したのである。 他方、ドイツやスウェーデンの2000年の所得格差状況が、日本の1993年の状況に似ていることも わかる。これらの国でも所得格差が拡大しているであろうが、わが国とは大きな開きがある。 いずれにせよ、わが国の所得格差は、2008年に、すでにアメリカの2000年水準に近似している。上 流で1990年代以降所得割合の拡大が継続しているのに対し、低所得層や中流の中・下では所得割合 の低下が継続しているほか、中流の上でも、拡大から低下に転じている。上流層がひとり所得割合 を増加させ、所得割合の低下を中流の上まで広げながら、所得格差の拡大が進行したのである。 2.勤労者世帯の所得格差の推移 次に、わが国の勤労者世帯の所得格差の推移をみてみよう。表2は、『家計調査』の「年間収入五 分位階級別1世帯あたり平均1ヶ月収入」の1980年から2011年にいたる推移を示したものである。1997 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 1980年 205.1 272.9 330.3 396.1 544.0 100 133.1 161.0 193.1 265.2 1990年 292.4 398.7 496.8 602.3 818.6 100 136.4 170.0 206.0 280.0 1997年 330.9 451.8 560.7 689.1 943.6 100 136.5 169.4 208.3 285.2 2002年 293.1 399.4 498.5 633.2 867.2 100 136.3 170.1 216.0 295.9 2007年 293.0 395.1 487.3 601.4 858.9 100 134.8 166.3 205.3 293.1 2011年 286.6 387.3 466.1 581.1 829.6 100 135.1 162.6 202.8 289.5 1980∼1990年 142.6 146.1 150.4 152.1 150.5 1990∼1997年 113.2 113.3 112.9 114.4 115.3 1980∼1997年 161.3 165.6 169.8 174.0 173.5 1997∼2002年 88.6 88.4 88.9 91.9 91.9 2002∼2007年 100.0 98.9 97.8 95.0 99.0 2007∼2011年 97.8 98.0 95.6 96.6 96.6 2002∼2011年 97.8 97.0 93.5 91.8 95.7 1997∼2011年 86.6 85.7 83.1 84.3 87.9 1980∼2011年 139.7 141.9 141.1 146.7 152.5 表2.年間収入五分位階級別1世帯当たり平均1ヶ月収入(勤労者世帯) (単位:上段 千円、下段 %) 資料出所:総務省『日本の長期統計系列』(第20章 家計)より。下段の格差や長期変化は筆者の計算による。 ― 19 ―

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年は収入がピークとなった年、2002年は景気の底で、それから2007年にかけて戦後最長の景気回復 期となる。2007年に景気回復が終了し、翌2008年のリーマン・ショックを経て、最新の2011年に至っ ている。表2によると、1980年から1997年までは収入が増加しているが、1997年以降2011年にかけ ては収入が減少している。 〈1980年∼1997年〉 そこで、まず収入が上昇していた1980年から1997年までの推移をみていこう。このうち1980年か ら1990年にかけては、どの階級も収入が大幅に増加している。例えば第1・五分位は、1980年の20.5 万円から1990年には29.2万円へ、第3・五分位は、同時期、33.0万円から49.7万円へという具合であ る。この10年間の収入の増加は、第1・五分位が1.43倍、第2・五分位が1.46倍に対し、第3・五分 位以上は1.5倍となっている。最大は第4・五分位の1.52倍である。 次に1990年から所得水準がピークになる1997年までの推移をみると、全体的に増加率が大幅にダ ウンし、所得階級別の上昇率格差も縮小している。第1・五分位から第3・五分位までが1.13倍に 対し、第4・五分位の1.14倍、第5・五分位の1.15倍という具合である。 以上を総合して1980年から1997年までの長期的変化をまとめると、17年間の収入の上昇は、第1・ 五分位は1.61倍、第2・五分位は1.66倍、第3・五分位は1.70倍、第4・五分位と第5・五分位は 1.74倍である。このように所得水準の上昇には明確に所得階級間格差がみられ、上昇率は低所得層 ほど低く、高所得層ほど高かった。その結果、第1・五分位に対する各階級との所得格差は、全て において拡大した。 例えば第2・五分位とでは、1980年の1.33倍から1990年の1.36倍をへて1997年には1.37倍に拡大 している。また最高所得層である第5・五分位との格差では、1980年の2.65倍から1990年の2.80倍 をへて、1997年には2.85倍にまで拡大した。 次に五分位階級別所得割合をみると、表3の示すとおり、所得水準上昇率で低かった第1・五分 位から第3・五分位までが若干低下している。第1・五分位が0.6ポイント(11.7%から11.1%へ)、 第2・五分位が0.5ポイント(15.6%から15.1%へ)、そして第3・五分位も0.1ポイント(18.9%から 18.8%へ)低下している。それに対し、第4・五分位と第5・五分位では若干増加している。第4・ 五分位が0.5ポイント(22.7%から23.2%へ)、第5・五分位が0.6ポイント(31.1%から31.7%へ) 増加している。 つまり所得割合は中流の中以下層では減少したが、中流の上と上流では増加した。「中流の縮小」 という視点でみると、この時期は、中流の中と下で縮小したのである。 〈1997年∼2011年〉 次に1997年以降2011年までの推移をみてみよう。表2の示すとおり、この時期はすべての所得階級 で収入の継続的低下が見られる。そのうち1997年から2002年の不況期の低下が最大である。続く2002 ― 20 ―

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年から2007年は景気回復期であったが収入は低下し、さらにリーマン・ショックの影響を受けた2007 年から2011年にも収入が低下したが、この2期の収入低下は、比較的緩やかであった。 1997年から2002年の収入低下が最大の不況期に、わけても収入低下が大きかった階級は、第1・五 分位∼第3・五分位の低所得層から中流の中である(2002年は1997年に比し88.4∼88.9%)。ちなみ に第1・五分位では、1997年の33.1万円から2002年の29.4円に大幅に低下(△3.7万円)し、第2・ 五分位、第3・五分位も、それぞれ5.2万円、6.2万円の大幅な低下であった。 それに対し、2002年から2011年にかけて低下幅が最大であったのは、第4・五分位の中流の上であ り(2011年は2002年に比し91.8%)、続いて第3・五分位である。第4・五分位は63.3万円から58.1 万円へ、5.2万円もの最大の低下となり、第3・五分位も3.2万円も低下した。 以上を総合して、1997年から2011年にかけての収入低下をみると、減少割合が最大なのは第3・五 分位、次いで第4・五分位である。第3・五分位は、約17ポイントの低下(1997年を100として2011 年には83.1)であり、第4・五分位も約16ポイントの低下(同時期84.3)である。それに対し、低下 幅の最も小さかったのが、第5・五分位であり、約12ポイントの低下(87.9)に止まった。つまり、 この時期の特徴は、中流の中と上で最大の収入低下をみ、上流では最小であったということである。 次に五分位階級別所得割合(表3)をみると、1997年から2011年にかけて第3・五分位と第4・五 分位のみが減少しており、他階級は維持ないし増加している。第3・五分位は1997年から2002年も、 2002年から2011年も継続して低下(18.8%→18.5%→18.2%へ0.6ポイント減)している。第4・五 分位は2002年から2011年に0.7ポイントも低下した。それに対し、第5・五分位は0.8ポイントも増加 (31.7%→32.2%→32.5%)している。第1・五分位(0.1ポイント)と第2・五分位(0)はほぼ同じ である。 このように、この時期には、第5・五分位の上流層では、所得水準が絶対的には低下したものの 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 1980年 11.7 15.6 18.9 22.7 31.1 1990年 11.2 15.3 19.0 23.1 31.4 1997年 11.1 15.1 18.8 23.2 31.7 2002年 10.9 14.8 18.5 23.5 32.2 2007年 11.1 15.0 18.5 22.8 32.6 2011年 11.2 15.1 18.2 22.8 32.5 1980∼97年 △0.6 △0.5 △0.1 0.5 0.6 1997∼02年 △0.2 △0.3 △0.3 0.3 0.5 2002∼11年 0.3 0.3 △0.3 △0.7 0.3 1997∼11年 0.1 0 △0.6 △0.4 0.8 1980∼11年 △0.5 △0.5 △0.6 0.1 1.4 表3.五分位階級所得割合(勤労者世帯) (単位:%) 資料出所:表2と同じ。筆者の計算による。 ― 21 ―

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最も軽微に止まり、相対的には増加した結果、他階層との格差をひとり拡大した。第1・五分位と 第5・五分位の格差は、2011年には2.90倍となり、唯一1997年(2.85倍)を上回った。それに対し、 第1・五分位と第4・五分位までの格差は縮小した。最大の打撃を被った第3・五分位と第4・五 分位の中流の中と上では、相対的にも低下した。特に第4・五分位の中流の上では、2002年までは 相対的に増加していたが、2002年を境に低下に転換した。 「中流の縮小」という視点でみれば、2002年までは、中流の中と下でのみみられたが、2002年を境 に、中流の上も含め全てに蔓延してきていることを意味している12 。所得格差の拡大は、2002年以降、 低所得層のみならず、中流階層全てを低下させつつ進行したのである。 3.全世帯の所得格差の推移 これまでは勤労者世帯に限定して所得格差の推移をみてきたが、次に全世帯を対象にみていくこ とにしよう。 表4は、1980年から2011年にいたる五分位階級別年間収入をみたものである。まず世帯状況をみる と、1980年から2011年までに大きく様変わりしていることが分かる。世帯人員は、1980年の4人近く (3.82人)から97年には3人強(3.3人)に減少し、2000年代に入ると3人を割っている(2.5人前後)。 それに伴い有業人員も1.5∼1.6人から1.1∼1.2人に減少している。ただし世帯有業率は、1980年の40.6% から90年の44.9%へ大幅に伸び、97年の46.1%、2002年の46.4%までは上昇した。しかしその後は低 下に転じており、2011年には44.1%となっている。 所得階級別に有業人員をみると、第1・五分位では、1980年には一人強(1.2人)であったのが、 1990年代には1人前後、そして2000年代には0.4∼0.5人の水準に落ちている。他方第5・五分位は1980 年∼90年代は2人前後であったのが、2000年代には2人弱であり、それほど大きな低下とはなって いない。 世帯主の年齢は、1980年の45.1歳から1990年代の50歳前後、さらに2000年代に入ると、55歳前後と 上昇している。2000年代半ば以降になると、第1・五分位や第2・五分位の世帯主の年齢は、60歳 前後から65歳前後となり、定年前後の年齢となっている。それに対し、第4・五分位や第5・五分 位の世帯主年齢は、1990年代から、それぞれ50歳前後(48歳∼52歳)、50歳強(52∼54歳)である。 このように、有業人員や世帯有業率は、2000年代に入り低下しているが、第1・五分位や第2・ 五分位では、世帯主が定年前後ということもあり、減少が目立っている。近年は一人暮らしまたは 夫婦暮らしで、家族で働いている人の割合は3人に一人程度と少ない。それに対し、第5・五分位 では、有業人員も最も多く、世帯有業率も最高(54∼55%)である。世帯主は賃金水準の最高とな る50歳代半ば近くであり、かつ家族で働く人が2人に一人強で、共働きが多い世帯であるといえよ う。 勤労者世帯だけを対象とした表2と比べると、収入は低所得階層や中流階層では勤労者世帯より も低いが、第4・五分位以上(1980年から97年まで)や第5・五分位だけ(2002年以降)は、勤労者 ― 22 ―

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平均 第1・ 十分位 第1・ 五分位 第2・ 五分位 第3・ 五分位 第4・ 五分位 第5・ 五分位 第10・ 十分位 1980年 世 帯 人 員 3.82 3.08 3.30 3.71 3.91 4.03 4.16 4.24 有 業 人 員 1.55 1.09 1.20 1.42 1.53 1.67 1.94 2.03 世帯主年齢 45.1 50.3 46.6 41.1 42.3 45.5 49.8 51.2 年 間 収 入 427 153 191 295 376 482 791 960 1990年 世 帯 人 員 3.56 2.66 2.88 3.46 3.71 3.82 3.95 3.98 有 業 人 員 1.60 0.92 1.08 1.42 1.66 1.78 2.06 2.16 世帯主年齢 49.4 57.9 54.6 45.8 46.7 48.2 51.7 53.1 年 間 収 入 652 217 271 433 570 743 1,246 1,530 1997年 世 帯 人 員 3.34 2.54 2.67 3.12 3.48 3.66 3.78 3.85 有 業 人 員 1.54 0.87 0.93 1.30 1.58 1.79 2.07 2.21 世帯主年齢 51.6 59.8 58.0 50.1 48.2 49.2 52.6 53.6 年 間 収 入 745 237 299 484 651 861 1,428 1,749 2002年 世 帯 人 員 2.63 1.25 1.49 2.12 2.74 3.23 3.55 3.64 有 業 人 員 1.22 0.36 0.51 0.85 1.22 1.58 1.92 2.07 世帯主年齢 53.2 62.5 59.6 54.0 50.5 49.6 52.5 53.8 年 間 収 入 587 138 189 348 494 700 1,202 1,466 2007年 世 帯 人 員 2.54 1.17 1.44 2.16 2.63 3.05 3.43 3.54 有 業 人 員 1.16 0.28 0.44 0.78 1.18 1.50 1.88 2.02 世帯主年齢 55.5 65.2 63.4 57.7 52.5 50.8 53.1 54.2 年 間 収 入 553 130 179 332 463 648 1,144 1,413 2011年 世 帯 人 員 2.47 1.19 1.41 2.09 2.54 3.00 3.33 3.41 有 業 人 員 1.09 0.30 0.41 0.70 1.09 1.45 1.81 1.94 世帯主年齢 56.9 65.6 64.6 60.0 54.9 51.5 53.6 55.2 年 間 収 入 520 127 172 314 434 607 1,074 1,325 1980∼90年 152.7 141.8 141.9 146.8 151.6 154.1 157.5 159.4 1990∼97年 114.3 109.2 110.3 111.8 114.2 115.9 114.6 114.3 1980∼97年 174.5 154.9 156.5 164.1 173.1 178.6 180.5 182.2 1997∼02年 78.8 58.2 63.2 71.9 75.9 81.3 84.2 83.8 2002∼07年 94.2 94.2 94.7 95.4 93.7 92.5 95.2 96.4 2007∼11年 94.0 97.6 96.1 94.5 94.6 93.7 93.9 93.8 1997∼11年 69.8 53.6 57.5 64.9 66.7 70.5 75.2 75.8 1980∼11年 121.8 83.0 90.1 106.4 115.4 125.9 135.8 138.0 表4.五分位階級別収入(全世帯) (単位:人、歳、万円) 資料出所:『家計調査年報』「年間収入五分位・十分位階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(全世 帯)」各年版より。長期的変化は筆者の計算による。 ― 23 ―

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世帯よりも高くなっている。その結果、階級間の所得格差は、全世帯の方が大きい。 〈1980∼1997年〉 1980年から1997年にかけての年間収入の推移(表4)は、勤労者世帯の場合とよく似ている。1980 年から1990年にかけての10年間に大幅に上昇(1.53倍)し、その上昇割合が高所得層ほど高かったこ とや、1990∼97年の増加率は大幅に低下し(1.14倍)、増加率の格差も縮小した。その結果、1980年 から1997年にかけて、年収は平均で1.75倍の上昇となった。 勤労者世帯と比較すると、第1・五分位と第2・五分位は、それぞれ1.57倍(191万円から299万円 へ)、1.64倍(295万円から484万円へ)上昇したが、勤労者世帯の上昇率を下回った。それに対し、 第3・五分位以上では、勤労者世帯を上回った。第3・五分位は1.73倍(376万円から651万円)、第 4・五分位は1.79倍(482万円から861万円)、第5・五分位は1.81倍(791万円から1428万円)上昇し た。 その結果、階級間格差も拡大し、第1・五分位と第5・五分位との格差は4.14倍から4.78倍へと拡 大した。勤労者世帯(2.85倍)よりもかなり大きい。 次に、五分位階級別所得割合(表5)をみると、第1・五分位から第3・五分位で、少し低下し たのに対し、第4・五分位以上では、所得割合が増加した。特に第5・五分位の上流階層で増加幅 が大きい。このように中流の中までは所得割合が低下し、中流の上以上では所得割合が増加した。 この特徴は勤労者世帯の場合とほぼ同様であるが、若干より拡大している。 〈1997∼2011年〉 1980年から1997年までは、全世帯の動向と勤労者世帯の動向は酷似していた。しかし、1997年以降 の収入の低下期には、両者に大きな違いが見られる。勤労者世帯でも大幅な収入の低下となったが、 全世帯の場合、それをはるかに上回る極めて大幅な収入の低下となった。 表4によると、収入の低下は、1997年から2002年のわずか5年間に急激におきたことを示している。 第1・五分位は、299万円から189万円へ(△110万円)、第2・五分位は484万円から348万円へ(△136 万円)、第3・五分位は651万円から494万円へ(△157万円)と、いずれも100万円を大きく越える減 額となっている。1997年を100として2002年の水準は、第1・五分位が63.2%へ、第2・五分位が 71.9%へ、第3・五分位が75.9%という具合に、25∼40%の極めて大幅な収入の低下となっている。 まさに劇的変化である。 それに対し、第4・五分位が861万円から700万円へ(△161万円)、第5・五分位が1428万円から1202 万円へ(△226万円)と大幅な減額であったが、減少割合は、かろうじて8割台にとどまった。 その後2002年以降も収入の低下は続いており、2002年∼2007年で5∼8ポイントの低下、2007年か ら2011年で4∼6ポイントの低下となっている。 2002年から2007年にかけて収入の低下幅が最大なのが、第4・五分位であり、第3・五分位が続い ― 24 ―

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ている。続く2007年から2011年にかけても、最大の低下は第4・五分位であり、第5・五分位が続い ている。こうして2002年に比し2011年の低下が最大なのは、第4・五分位の86.7%であり、第3・五 分位が87.9%で続いている。年収でいうと、500∼700万円から400∼600万円強へと大幅に低下してし まった。つまり、2002年以降は、中流の上と中が、所得低下の最大の対象となったのである13 以上みたように、1997年∼2002年の劇的低下と、2002年∼2011年のそれに比べると緩やかだが長期 にわたる低下が連続した結果、2011年は、1997年に比し、第1・五分位は57.5%、6割以下に、第2・ 五分位と第3・五分位は64.9∼66.7%で3分の2程度に、第4・五分位は70.5%、第5・五分位は 75.2%、4分の3にまで低下している。すさまじい低下振りである。 勤労者世帯でも、1997年以降収入の低下がみられたが、2011年は1997年に比し、83∼88%に止まっ ている。低下幅の相対的少なさと格差の少なさが明らかであり、全世帯とは比べ物にならない。 また、この間の所得階級間の格差をみると、1997年までにすでに拡大していたのが、さらに一層 拡大し、2002∼2007年にかけて最大になっている。第5・五分位は第1・五分位に対し6.39倍(2007 年)となり、勤労者世帯と比べ、2倍以上の格差となっている。 次に、五分位階級別所得割合(表5)をみてみると、1997年から2002年の収入低下がすさまじかっ た時期は、わずか5年間にすぎないのに、1980年から97年の17年間を大きく上回る変化が生じている。 第1・五分位の1.6ポイントの低下を筆頭に、第3・五分位まで軒並み低下となっている(第2・五 分位では1.1ポイント、第3・五分位も0.7ポイントの低下)。それに対し、第5・五分位は2.6ポイン トも増加し、第4・五分位も1.0ポイントの増加である。このようにこの5年間に、第3・五分位以 下の、低所得層から中流の中までが所得割合を大幅に低下させる一方、第4・五分位以上の、中流 第1・ 十分位 第1・ 五分位 第2・ 五分位 第3・ 五分位 第4・ 五分位 第5・ 五分位 第10・ 十分位 1980年 3.6 8.9 13.8 17.6 22.6 37.0 22.5 1997年 3.2 8.0 13.0 17.5 23.1 38.4 19.7 2002年 2.4 6.4 11.9 16.8 24.1 41.0 25.0 2007年 2.3 6.5 12.0 16.7 23.4 41.3 25.5 2011年 2.4 6.6 12.1 16.7 23.3 41.3 25.5 1980∼1997年 △0.4 △0.9 △0.8 △0.1 0.5 1.4 2.8 1997∼2002年 △0.8 △1.6 △1.1 △0.7 1.0 2.6 5.3 2002∼2011年 0 0.2 0.2 △0.1 △0.8 0.3 0.5 2002∼2007年 △0.1 0.1 0.1 △0.1 △0.7 0.3 0.5 2007∼2011年 0.1 0.1 0.1 0 △0.1 0 0 1997∼2011年 △0.8 △1.4 △0.9 △0.8 0.2 2.9 5.8 表5.五分位階級別所得割合(全世帯) (単位:%) 資料出所:表4と同じ。筆者の計算による。 ― 25 ―

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の上や上流層が所得割合を大幅に増加させ、所得格差は劇的に拡大した。 2002年以降は、全体的に変化は少ない。その中にあって極めて特徴的なことは、第4・五分位の 中流の上でも所得割合が低下したことである。2002年までは所得割合が増加する側にいたが、2002年∼ 2007年にかけて減少し、2011年にいたるも同水準に止まっている。このことは、所得割合の縮小が、 これまでの第1・五分位∼第3・五分位の低所得層や中流の中と下に加え、第4・五分位の中流の 上位層にまで拡大したことを意味している。全世帯でも勤労者世帯と同様に、2002年以降、中流の 縮小が上位層にまで拡大したといえよう。 以上、1997年から2011年の動向をまとめると、1997年から2002年にかけて収入の急激な低下に見舞 われたが、その中でも特に劇的であったのが、第1・五分位の低所得層を中心に第3・五分位の中 流の中までの階層であった。その結果、これらの階級では所得割合も大幅に低下した。 続く2002年以降は低下幅の小さい緩やかな低下であったが、中流の上と中である第4・五分位や 第3・五分位で最大の低下を被り、これらの階層で所得割合が低下した。特に第4・五分位では、 それまでの増加から縮小に転換した。こうしてわが国は2002年以降、中流の上位層まで低下し、上 流階層のみがひとり増加する格差社会に転化しつつあるといえよう。 「中流階層の縮小」という視点でみれば、2000年代は、すでに縮小した低位層ではほぼ横ばいで あったのに対し、中流の中と上で、特に上で増加から縮小に転換したのであり、中流の縮小が全体 にまで拡大し一般化したといえよう。

第2章

消費生活からみた「中流」の縮小

1.消費支出の推移 「消費支出」とは、毎日の生活である衣・食・住のための支出のことである。「生活費」ともいわ れる。「家計調査」では「食費」・「交通・通信費」・「教養娯楽費」など十大費目に分類されている。 労働者世帯の場合、勤労収入を中心とした実収入から、税・社会保険料の「非消費支出」を差し引 いた「可処分所得」の大部分を占めている14 ! 勤労者世帯の消費支出の推移 『家計調査』により勤労者世帯の消費支出の長期的推移を示したのが表6である。平均でみると、 1980年に23.8万円であったのが、1990年の33.2万円をへて、1997年には35.8万円のピーク(1980年比 1.50倍)に達している。しかしその後は、すでにみた収入の低下にあわせて、消費支出も低下の一 途をたどっている。2000年で34.1万円、2005年32.9万円、2011年には28.3万円まで低下した。2005年 にはすでに1990年の水準を下回り、2011年は1980年代半ばまで後退している(2011年の水準は、ピー ― 26 ―

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クの1997年に比し79.1%)。 消費支出の推移を五分位階級別にみると、ピークである1997年まではどの階級でも増加している。 そのうち増加率の最も高いのは、第4・五分位(17年間に1.56倍。26.2万円から41.0万円)、次いで 高いのが第3・五分位(1.52倍。22.8万円から34.6万円)である。第5・五分位も1.5倍の増加で第 3位となっている(33.9万円から50.9万円に)。それに対し、第1・五分位と第2・五分位の増加は 1.43∼1.46倍と低かった。 その結果、消費支出の階級間格差は拡大し、第1・五分位に対する第4・五分位の格差は1.61倍 から1.76倍へ、第5・五分位とは2.09倍から2.19倍となっている。 ところが、1997年以降、消費支出は、どの階級でも低下し続けている。そのうち低下幅が最大な 平均 第1・ 五分位 第2・ 五分位 第3・ 五分位 第4・ 五分位 第5・ 五分位 1980年 238.1 162.6 199.1 227.5 262.4 339.0 100 122.4 140.0 161.4 208.5 1990年 332.0 217.1 271.0 326.5 369.0 474.3 100 124.8 150.4 170.0 218.5 1995年 350.0 233.9 290.4 342.5 391.3 490.3 100 124.2 146.4 167.3 209.6 1997年 357.6 232.7 290.4 345.7 410.3 509.0 100 124.8 148.6 176.3 218.7 2000年 341.0 229.5 277.4 325.2 383.9 489.0 100 120.9 141.7 167.3 213.1 2002年 330.7 213.2 272.7 309.6 376.6 481.1 100 127.9 145.2 176.6 225.7 2005年 328.6 218.4 270.3 312.4 378.0 464.1 100 123.8 143.0 173.1 212.5 2011年 283.0 187.6 238.3 267.3 308.9 412.8 100 127.0 142.5 164.7 220.0 1980∼1997年 150.2 143.1 145.9 152.0 156.4 150.1 1997∼2002年 92.5 91.6 93.9 89.6 91.8 94.5 2002∼2011年 85.6 88.0 88.4 86.3 82.0 85.8 1997∼2011年 79.1 80.6 82.1 77.3 75.3 81.1 1980∼2011年 118.9 115.4 119.7 117.5 117.7 121.8 表6.消費支出の推移(勤労者世帯) (単位:上段 千円、下段 %) 資料出所:総務省『日本の長期統計系列』第20章家計、総務省『家計調査年報』平成23年より。 長期的変化は筆者の計算による。 ― 27 ―

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のが、第4・五分位であり、2011年には1997年の75.3%にまで低下した。次いで低下幅の大きいのが 第3・五分位であり、同期間に77.3%にまで低下した。この2つの階級だけが、平均を上回る低下 となっている。逆に低下幅の小さいのが、第2・五分位と第5・五分位である。第5・五分位は、 97年までの増加時期に大幅に増加し、かつその後の低下時期にも小さな低下幅に止まったのである。 その結果、消費支出の階級間格差は、第2・五分位と第5・五分位で拡大し、特に第5・五分位 の第1・五分位に対する格差は、2011年には2.2倍で、1997年の2.19倍をも上回った。それに対し、 第4・五分位や第3・五分位では縮小し、2011年には、それぞれ1.65倍、1.43倍とほぼ1980年水準ま で逆戻りし、格差は縮小した。 以上みたように、消費支出の階級間格差は、1980年から1997年にかけては、すべての階級間で拡大 したが、97年以降は、第4・五分位と第3・五分位の中流の上と中で縮小し、第5・五分位の上流 層では拡大した。この30年あまりの間に最も大きな変動を被ったのが、中流の上と中である。現在 も水準自体は相対的に高いが、低下幅の大きさは生活不安の反映であろう。収入における「中流」 の縮小は、消費支出にも明瞭に反映されているといえよう。 ! 全世帯の消費支出の推移 次に全世帯の消費支出をみてみよう。表7によると、1980年から1997年までは、全世帯の消費支出 も、勤労者世帯の消費支出とほぼ同水準で、同様の動きをみせていた。全世帯の方が若干低く(平 均では2万円程度)、階級間格差は若干大きいという特徴がある。 ところが、1997年以降2002年までに大幅に低下し、勤労者世帯と比較すると、まさに1ランク低下 してしまった。2002年でいえば、全世帯と勤労者世帯では、平均が269.8千円と330.7千円、第1・五 分位がそれぞれ143.6千円と213.2千円、第2・五分位が215.5千円と272.7千円、第3・五分位が256.5 千円と309.6千円、第4・五分位が308.6千円と376.6千円、第5・五分位が425.0千円と481.1千円と いう具合である。両者の開きは2011年まで変わりがない。 消費支出の低下は、その後も続き、リーマン・ショック後にも生じているが(2008年から2011年に かけて94.6%に5.4ポイント低下)、1997年から2002年にかけての劇的低下(80.9%、19.1ポイントの 低下)には遠く及ばない。 また階級間格差は、水準の低下にもかかわらず、拡大している。第1・五分位と第5・五分位と の格差は、1997年の2.31倍から、2002年には2.96倍となっている。この格差はその後若干変動してい るが、2.9倍前後で高止まりしており、2009年には2002年水準を上回った(2.98倍)。 2.食費の動向 消費支出の中で最大の支出額を占めるのは、「食費」である。食費は必需的支出ともいわれ、人間 生活の基底的部分を支えている。消費支出の推移を念頭におきながら、食費の動向をみていこう。 ― 28 ―

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! 勤労者世帯の食費 〈食費の推移〉 表8は、勤労者世帯の食費とそのうちの外食について、1980年から2011年までの推移をみたもので ある。まず食費の推移をみると、1990年がピークの80.0千円であり、1997年はほぼ同じ79.9千円となっ ている。食費も97年以降低下し、2005年には71.0千円、2011年には66.9千円まで下がり、1980年(66.2 千円)とほぼ同額となっている。「必需的支出」といわれる食費がこれほどまで低下していることを、 まず確認しておこう。 平均 第1・十分位 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 第1十分位0・ 1980年 230.6 135.2 151.3 189.7 221.1 256.4 334.4 372.3 100 125.4 146.1 169.5 221.0 1985年 273.1 146.1 169.2 222.6 258.4 310.6 404.8 443.6 100 131.6 152.7 183.6 239.2 1990年 311.2 170.2 191.9 252.8 300.1 352.7 458.4 500.6 100 131.7 156.4 183.8 238.9 1997年 333.3 188.3 210.5 267.0 317.4 383.6 488.1 536.1 100 126.8 150.8 182.2 231.9 2000年 317.1 187.0 206.3 259.3 297.1 357.9 465.0 509.0 100 125.7 144.0 173.5 225.4 2002年 269.8 112.0 143.6 215.5 256.5 308.6 425.0 469.0 100 150.1 178.6 214.9 296.0 100 128.2 192.4 229.0 275.6 379.5 418.8 2005年 266.5 117.8 143.9 205.9 256.4 311.3 415.0 456.5 100 143.1 178.6 216.3 288.4 317.2 100 122.2 174.8 217.7 264.3 352.3 387.5 2007年 261.5 114.3 141.1 207.6 249.2 297.1 412.6 456.5 100 147.1 176.6 210.6 292.4 323.5 100 123.4 181.6 218.0 259.9 361.0 399.4 2011年 247.2 111.6 134.8 197.4 239.3 279.4 385.2 429.8 100 146.4 177.5 207.3 285.8 100 120.8 176.9 214.4 250.4 345.2 385.1 1997∼02 80.9 59.5 68.2 80.7 80.8 80.4 87.1 87.5 2002∼07 96.8 102.1 98.3 96.3 97.1 96.3 97.1 97.3 2007∼11 94.5 97.6 95.5 95.1 96.0 94.0 93.4 94.2 2002∼11 91.6 99.6 93.9 91.6 93.3 90.5 90.6 91.6 1980∼11 107.2 82.5 89.1 104.1 108.2 109.0 115.2 115.4 表7.消費支出の推移(全世帯) (単位:千円、%) 資料出所:『家計調査年報』「第3表 年間収入五分位・十分位階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(全 世帯)」各年版より。長期的変化は筆者の計算による。 ― 29 ―

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次に所得階級別に食費の推移をみていこう。1980年から1990年または1997年までは、いずれの階級 においても増加している。増加幅は、第3・五分位以上で22∼27%と高く、第1・五分位と第2・ 五分位は15∼20%と低い。ちなみにピーク時の食費は、第1・五分位が60.9千円、第2・五分位が 73.1千円、第3・五分位が81.8千円、第4・五分位が88.7千円、第5・五分位が99.6千円である。 その後食費はどの階級でも低下するが、低下幅が最大なのは第3・五分位であり、2011年には1980 年の水準を3.6ポイントも下回っている(1980年の96.4%)。第1・五分位、第2・五分位、第4・五 分位も、やはり1980年の水準をほんの少し下回っている(98.9∼99.0%)。 平均 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 食 費 66.2 52.8 61.0 66.5 72.5 78.3 1980年 う ち 外 食 8.7 6.3 7.9 9.1 9.7 10.7 外 食 の 割 合 13.1 11.9 13.0 13.7 13.4 13.7 食 費 74.3 56.7 68.5 74.8 81.5 90.3 1985年 う ち 外 食 11.3 7.9 10.4 11.7 12.3 14.0 外 食 の 割 合 15.2 13.9 15.2 15.6 15.1 15.5 食 費 80.0 60.9 73.1 81.6 88.1 96.3 1990年 う ち 外 食 13.4 9.1 11.9 13.7 15.0 17.1 外 食 の 割 合 16.8 14.9 16.3 16.8 17.0 17.8 食 費 78.9 59.8 71.2 79.7 87.5 96.5 1995年 う ち 外 食 13.9 9.1 12.1 14.4 15.8 18.3 外 食 の 割 合 17.6 15.2 17.0 18.1 18.1 19.0 食 費 79.9 59.3 70.0 81.8 88.7 99.6 1997年 う ち 外 食 14.6 9.7 12.6 14.7 16.5 19.3 外 食 の 割 合 18.3 16.4 18.0 18.0 18.8 19.4 食 費 74.9 56.3 65.9 75.8 83.2 93.3 2000年 う ち 外 食 14.2 9.3 12.0 14.6 15.8 19.2 外 食 の 割 合 18.9 16.5 18.2 19.3 19.0 20.6 食 費 73.4 53.2 64.0 73.8 82.0 94.0 2002年 う ち 外 食 14.2 8.6 12.2 14.0 15.9 20.5 外 食 の 割 合 19.3 16.2 19.1 19.0 19.4 21.8 食 費 71.0 53.1 62.7 69.7 78.4 90.9 2005年 う ち 外 食 14.0 8.5 11.8 13.6 16.1 20.2 外 食 の 割 合 19.7 16.0 18.8 19.5 20.5 22.2 食 費 66.9 52.2 60.4 64.1 71.7 86.1 2011年 う ち 外 食 11.0 5.5 7.8 10.6 13.4 17.8 外 食 の 割 合 16.4 10.5 11.6 16.5 18.7 20.7 表8.食費と外食費(勤労者世帯) (単位:千円、%) 資料出所:表2と同じ。外食の割合は筆者の計算による。 ― 30 ―

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それに対し1980年の水準を唯一上回っているのが第5・五分位である(1980年比 110%)。その結 果、食費の階級間格差は、2011年には、第4・五分位までは1980年水準にまで縮小したが、第5・五 分位のみピーク時とほぼ同じ格差になっている。 以上みたように、食費の動向は消費支出の動向と類似しており、1997年(第1・五分位のみ1990年) までは増加しつつ、全ての階級で格差が拡大したが、97年以降は減額しながら、中流以下層では上 位も含めて格差が縮小し、上流層のみ拡大した。食費においても、中流の縮小が見て取れる。 〈外食の動向〉 食費のうち外食の占める割合をみてみよう。食生活の変化により様々な外食店が増加し、食費に 占める外部化費の割合は増加してきた。表8によると、外食の食費に占める割合は、1980年の13.1% が1990年に16.8%、1997年には18.3%と増加の一途をたどってきた。その後食費は(外食費も)減少 したが、外食の割合は、さらに増加し、2000年には18.9%、2005年にも19.7%にまで達した。しかし 2011年には16.4%に大幅に低下し、1990年以前の水準に逆戻りしている。リーマン・ショック以降は 大きな変化が見られるといえよう。 次に所得階級別に外食の食費に占める割合をみてみると、1980年には、所得水準にかかわらず外 食化が同様に浸透していたことを示している。第1・五分位の11.9%から第5・五分位の13.7%まで 2ポイント程度の開きである。このような特徴は、1990年や1997年にもみられる。2000年から2005年 になると、やや差が開いてきている。ちなみに2005年には、第1・五分位の16.0%から第5・五分位 の22.2%へと、ほぼすべての階級で外食の割合が上昇しつつ、差は6ポイント程度に広がっている。 ところが、2011年には、全ての階級で外食の割合が低下すると同時に、外食の割合の階級間格差 は一気に拡大した。第1・五分位と第2・五分位で低下幅が大きく(△6∼7ポイント)、1980年以 前の水準まで低下(10.5%と11.6%)した。それに対し、第3・五分位以上では低下幅は小さく(△ 2∼3ポイント)、特に第5・五分位は20%台に止まり、第1・五分位との間で10ポイントもの開き となった。 このように外食化の進行という食生活の変化は、当初、すべての所得階級に同程度に浸透してい た。1997年以降、差は若干広がるものの、2005年までは多少に止まっていた。しかし2005年以降所得 階級間の差が広がり、リーマン・ショック後の2011年には第1・五分位や第2・五分位では大幅に 抑制されたのに対し、第5・五分位では最高に近い水準にとどまっている。外食の割合における所 得間格差は、2005年以降急拡大したといえよう。 ! 全世帯の食費 〈食費の推移〉 表9によると、全世帯の食費は、1980年から1997年までは、勤労者世帯の食費とほぼ同水準で、1990 年または1997年まで増加するなど同様の推移を示していた。しかし、消費支出と同様、1997年から2002 ― 31 ―

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年にかけて大幅に低下し、2002年には、食費も、全世帯は勤労者世帯と比べ、ほぼ1ランク下回っ ている。 全世帯を勤労者世帯と比べると、2002年の食費は、平均が62.8千円対73.4千円であり、第1・五分 位は36.3千円対53.2千円、第2・五分位は53.4千円対64.0千円、第3・五分位は61.9千円対73.8千 円、第4・五分位は74.3千円対82.0千円、第5・五分位は88.1千円対94.0千円である。この全世帯 と勤労者世帯との関係は、その後2011年にいたるも、ほぼ維持されている。 平均 第1・十分位 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 第1十分位0・ 食 費 66.9 47.5 51.4 60.4 67.3 73.2 82.2 87.6 1980年 外 食 7.3 3.8 4.7 6.2 7.4 7.9 10.1 11.4 外 食 比 率 10.9 8.0 9.1 10.3 11.0 10.8 12.3 13.0 食 費 73.7 48.3 53.7 66.5 74.2 82.5 91.9 96.2 1985年 外 食 9.0 3.6 4.8 7.7 9.1 10.5 12.9 14.3 外 食 比 率 12.2 7.5 8.9 11.6 12.3 12.7 14.0 14.9 食 費 79.0 52.5 57.2 70.4 80.2 88.1 98.9 103.5 1990年 外 食 11.1 4.6 5.8 9.2 11.1 13.1 16.4 17.9 外 食 比 率 14.1 8.8 10.1 13.1 13.8 14.9 16.7 17.3 食 費 78.3 53.7 58.0 67.4 78.3 87.5 100.2 105.4 1997年 外 食 12.1 5.4 6.3 9.4 12.0 14.2 18.4 20.9 外 食 比 率 15.5 10.1 10.9 13.9 15.3 16.2 18.4 19.8 食 費 62.8 30.3 36.3 53.4 61.9 74.3 88.1 93.6 2002年 外 食 12.4 4.6 6.3 11.2 12.0 14.8 17.6 19.8 外 食 比 率 19.7 15.2 17.4 21.0 19.4 19.9 20.0 21.1 食 費 60.0 28.5 35.1 51.6 59.4 69.2 84.5 91.2 2007年 外 食 11.3 3.9 5.5 8.8 11.0 13.8 17.4 19.3 外 食 比 率 18.8 13.7 15.7 17.1 18.5 19.9 20.6 21.2 食 費 59.3 28.2 34.7 50.6 58.5 67.9 84.6 91.6 2009年 外 食 10.9 4.1 5.1 8.3 10.5 13.4 17.1 19.3 外 食 比 率 18.4 14.5 14.7 16.4 17.9 19.7 20.2 21.0 食 費 58.4 29.6 34.8 50.8 58.9 65.4 82.0 88.1 2011年 外 食 10.6 4.3 5.3 8.0 10.8 12.2 16.8 18.8 外 食 比 率 18.2 14.5 15.2 15.7 18.3 18.7 20.5 21.3 食費の伸び 1997∼02 80.2 56.4 62.6 79.2 79.1 84.9 87.9 88.8 2002∼07 95.5 95.0 96.7 96.6 95.3 93.1 95.9 97.4 2007∼11 97.3 103.9 99.1 98.4 97.2 94.5 97.0 96.6 2002∼11 93.0 97.7 95.9 95.1 95.2 88.0 93.1 94.1 表9.食費と外食費(全世帯) (単位:千円、%) 資料出所:表4と同じ。外食比率、食費の伸びは筆者の計算による。 ― 32 ―

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また2002年の食費の落ち込みが大幅である(2002年は1997年に比し80.2%)ため、2002年時点で すでに、第1・五分位∼第3・五分位は、1980年の水準を下回った。第4・五分位では2007年に下回 り、第5・五分位ですら2011年には、ほんの少し下回った。このように全世帯では、勤労者世帯よ りもかなり前から、食費の逆戻りが進行した。1997年から2002年にかけての年収の激減は、食費にも 大きな影響を及ぼしたことが明らかである。 〈外食の動向〉 全世帯の場合、外食の食費に占める割合は、1980年から1997年までは、勤労者世帯よりも2∼3 ポイント低かった(1980年の10.9%から1990年の14.1%をへて1997年には15.5%)。 ところが、1997年から2002年にかけて大幅に上昇し、2002年には、勤労者世帯の外食比率をほん の少し上回った(第5・五分位を除く)。2002年以降、97年までみられたような勤労者世帯との差は 明らかに縮小した。 この外食比率の高止まりは、高齢化の進展による外食依存や、一旦習慣化した外食利用(食生活 の変更)は、収入が低下しても変更し難しいということ、さらにはファーストフード店の低価格化 などによるものであろう。 3.エンゲル係数の推移 エンゲル係数とは食費の消費支出に占める割合であり、生活水準を測る指標でもある。戦後直後 には極めて高かったが、1960年代前半には40%以下に、さらに1970年代末には30%にまで低下する など、生活水準の向上を示してきた。 ! 勤労者世帯のエンゲル係数の推移 1980年以降の勤労者世帯のエンゲル係数の推移は、表10に示すとおり、2000年までは低下傾向に 平均 第1・五分位 第2・五分位 第3・五分位 第4・五分位 第5・五分位 1980年 27.8 32.5 30.6 29.2 27.6 23.1 1990年 24.1 28.1 27.0 25.0 23.9 20.3 1995年 22.5 25.6 24.5 23.3 22.4 19.7 1997年 22.3 25.5 24.1 23.7 21.6 19.6 2000年 22.0 24.5 23.7 23.3 21.7 19.1 2002年 22.2 25.0 23.5 23.8 21.8 19.5 2005年 22.9 26.9 24.6 23.8 22.3 19.9 2011年 23.6 27.8 25.3 24.0 23.2 20.9 表10.エンゲル係数の推移(勤労者世帯) (単位:%) 資料出所:表2と同じ。 ― 33 ―

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