Title
有熱性尿路感染を繰り返した成人膀胱尿管逆流に対し経
尿道的Deflux注入療法を施行した3例
Author(s)
齋藤, 陽子; 寺西, 淳一; 熊野, 曜平; 安井, 将人; 森, 亘平; 米
山, 脩子; 郷原, 絢子; 河原, 崇司; 上村, 博司
Citation
泌尿器科紀要 = Acta urologica Japonica (2017), 63(7): 271-
274
Issue Date
2017-07-31
URL
https://doi.org/10.14989/ActaUrolJap_63_7_271
Right
許諾条件により本文は2018/08/01に公開
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
有熱性尿路感染を繰り返した成人膀胱尿管逆流に対し
経尿道的
Deflux
注入療法を施行した
3
例
齋藤 陽子,寺西 淳一,熊野 曜平
安井 将人,森
亘平,米山 脩子
郷原 絢子,河原 崇司,上村 博司
横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科TRANSURETHRAL INJECTION USING DEFLUX FOR VESICOURETERAL
REFLUX IN THREE ADULT WOMEN WITH FREQUENT
FEBRILE URINARY TRACT INFECTIONS
Yoko Saito,Jun-ichi Teranishi,Yohei Kumano, Masahiro Yasui,Syohei Mori,Shuko Yoneyama, Ayako Gobara,Takashi Kawahara and Hiroji UemuraThe Departments of Urology and Renal Transplantation, Yokohama City University Medical Center
We report three patients with frequent febrile urinary tract infections (fUTI) who underwent transurethral injection therapy with Deflux for vesicoureteral reflux (VUR). The first case was in a 52-year-old woman who was initially diagnosed with right grade II and left grade I VUR at 18 years of age. She frequently experienced fUTI due to VUR. The second case was in a 29-year-old woman. At age 23,she was diagnosed with right grade III VUR when she developed fUTI. After that,she repeatedly developed fUTI. The third case was in a 40-year-old woman who had frequently experienced fUTI since 25 years of age and had gradually become antibiotics-resistant. She was diagnosed with right grade III VUR when she was referred to our hospital. No visible reflux was confirmed by postoperative voiding cystourethrography after the patients underwent transurethral injection using Deflux. One patient developed fUTI once after surgery,but there were no perioperative complications and no recurrences. Transurethral injection using Deflux for VUR might therefore be safe and effective for treating VUR in adult female patients.
(Hinyokika Kiyo 63 : 271-274,2017 DOI : 10.14989/ActaUrolJap_63_7_271)
Key words : Adult VUR,Deflux
緒 言 本邦では2010年の保険収載以降,膀胱鏡を用いて尿 管口周囲の粘膜下にデキストラノマーとヒアルロン酸 の合剤であるDefluxを注入する経尿道的Deflux注入 療法が低グレードの原発性VURに対する低侵襲治療 として広く行われている1). 今回,有熱性尿路感染(fUTI)を反復した成人の VUR例に対し経尿道的Deflux注入療法を施行した3 例を経験したので報告する. 症 例 患者1 : 52歳,女性 既往歴・家族歴: 特記事項なし 現 病 歴 : 18歳 時 よ り fUTI を 繰 り 返 し,両 側 の VURを指摘されていた.48歳時に fUTI反復のため 当科受診した.膀胱容量の低下を認めたため,プロピ ベリンの内服を開始し翌年には左側のVUR消失を確 認した.経過観察中,再度fUTI発症したため,残存 した右側のVURに対し手術の方針となった. 画像所見: 排尿時膀胱尿道造影(VCUG)にて右Ⅱ 度の VUR(Fig. 1a,b)と膀胱容量の低下を認めた (膀胱最大容積300 ml). 経 過 : 経 尿 道 的 Deflux 注 入 療 法(Double-HIT 法)にて,右に計1.4 ml注入した.術後は合併症な く経過し,プロピベリンは内服中止となった.術後6 カ月後のVCUGにて逆流の消失を確認し,5年1カ 月経過した現在もfUTI発症なく経過している. 患者2 : 29歳,女性 既往歴・家族歴:特記事項なし 現病歴: 23歳時にfUTI発症し,右腎萎縮と右Ⅲ度 のVUR,膀胱容量の低下を認めた.プロピベリン内 服下に経過観察としていたがその後もfUTI反復した ため,手術の方針となった.
画像所見: VCUGにて右Ⅲ度のVUR(Fig. 1c)と 膀胱容量の低下を認めた(膀胱最大容積250 ml).ま た,腹部CTにて右腎萎縮を認めた.
泌62,08,0◆-1a 泌62,08,0◆-1b
泌62,08,0◆-1c 泌62,08,0◆-1d
Fig. 1. Images from VCUG in three patients before operations (a,b : Case 1,c : Case 2,d :
Case 3).
Table 1. Three patients who underwent transurethral injection therapy with Deflux for VUR
症例1 症例2 症例3
年齢(歳) 52 29 40
性別 女性 女性 女性
患側,Grade 右Ⅱ度 右Ⅲ度 右Ⅲ度
その他の所見 膀胱容量の低下 右腎萎縮,膀胱容量の低下 右腎萎縮,膀胱容量の低下
術式 Double-HIT法 Double-HIT法 STING法
Deflux注入量 1.4 ml 2.0 ml 1.0 ml
術後VCUG所見※ 逆流なし 逆流なし 逆流なし
合併症 なし なし なし
術後経過 fUTl発症なし fUTl発症なし fUTlウラピジル内服継続発症あり
術後年数 5年1カ月 4年9カ月 3年2カ月 ※ 術後6カ月で排尿時膀胱尿道造影(VCUG)施行し,VUR残存の有無を確認した. 法)にて,右に計2.0 ml注入した.術後合併症なく 経過し,プロピベリンは内服中止となった.術後6カ 月後のVCUGで逆流消失を確認し,術後4年9カ月 経過した現在もfUTI発症なく経過している. 患者3 : 40歳,女性 既往歴・家族歴: 特記事項なし 現病歴: 25歳時よりfUTIを反復し,適宜抗菌薬の 内服で対応していたが,徐々に抗生剤に不応となった ため当科紹介受診となった.VCUG にてVURと膀 胱容量の低下を認めたため,プロピベリン内服下に経 過観察となったがfUTI反復したため,手術の方針と なった.
画像所見: VCUGにて右Ⅲ度のVUR(Fig. 1d)を 認めた. 経 過: 経尿道的Deflux注入療法(STING法)に て,右に計1.0 ml注入した.術後合併症なく経過し, プロピベリンは内服中止となった.術後6カ月後の VCUGにて逆流消失を確認したが,術後2年3カ月 泌尿紀要 63巻 7 号 2017年 272
Table 2. Treatment reports of transurethral injection therapy with Deflux for adult VUR
n 平均年齢(歳) 使用した注入物質 治癒率(%)※ 主な合併症
Chooら9) 30名(43尿管) 34.9 Teflon 79 なし
Natshehら5) 49名(81尿管) 33.6 Deflux,Teflon 78 なし
Murphyら3) 19名(24尿管) 22 Deflux 79 なし
Mooreら4) 27名(41尿管) 23 Macroplastique,Deflux 87 尿管閉塞(1例)
※ Deflux使用による1回の治療の治癒率を示した. にfUTIを発症し,ウラピジルの内服開始となった. 開始後1年経過した現在までfUTIは発症していな い. 3症例をまとめたものをTable 1に示す. 考 察 VURは,尿管膀胱接合部の先天的な形成不全に基 づく同部の機能異常によって生ずる原発性VURと, 下部尿路の機能的,器質的障害による膀胱内圧上昇の ため,尿管膀胱接合部の逆流防止機構が障害され発生 する続発性VURとに分けられる1).今回の症例は, 軽度の膀胱容量低下を合併した小児期VURキャリー オーバーの症例であるのか,あるいは神経因性膀胱な どに伴う下部尿路通過障害が原因となる続発性VUR であるのかの鑑別は困難である.しかしいずれの症例 も軽度の膀胱容量の低下を伴っていることから治療の 原則は,清潔間欠的導尿や抗コリン薬内服により保存 的に膀胱内を低圧環境に保つことが第一である.これ らの保存的治療によりfUTI予防の良好なコントロー ルが得られない症例やgrade III以上のVURである症 例が手術適応とされる2). 膀胱内を低圧環境に保つという治療原則に則り,高 圧膀胱を合併するVURに対する外科的治療として腸 管を用いた膀胱拡大術が行われてきたが,以前より, 主に原発性VURに行われている逆流防止術が,続発 性VURにも有効であることが報告されている. Moriokaら3)は,二分脊椎による続発性VURに対 す る 治 療 に お い て,high-grade(grade III∼V)の VURの手術選択に関しては膀胱容量と膀胱コンプラ イアンスの低下の程度で区別し,膀胱容量がある程度 保たれ(%vol >75%),膀胱コンプライアンスが 7 ml/cmH2Oより大きい症例には尿管膀胱新吻合術の みで治癒を得られるが,膀胱容量が低下し(%vol< 60%),膀胱コンプライアンスの低下が著しい症例 (<4 ml/cmH2O)に関しては,尿管膀胱新吻合術に 膀胱拡大術を併用すべきであると報告した.辻ら4)も 同様に二分脊椎による続発性VURに対する治療とし て,逆流防止術単独療法群と逆流防止術に膀胱拡大術 を併用した群において膀胱容量と膀胱コンプライアン スの改善には有意な差があったが,逆流消失率におい て両者に差はなかったと報告した. また,近年,小児原発性VURに対する低侵襲性治 療として広く使われている経尿道的注入療法が成人 VURや続発性VURに対する治療として使用されて いる. 成人VUR症例に対する本術式の治療効果に関する いくつかの論文での報告をTable 2にまとめた.ま た,本邦においても成人VUR例に対し本術式が有効 であったとされる症例報告がある5,6). また,Misraら7)は,神経因性膀胱を伴う小児VUR に対し経尿道的注入療法の長期成績が良好であると し,Kyuら8)は,経尿道的注入療法は成人例におい て,膀胱コンプライアンスに関係なく,有効であると 報告している.以上の報告から,経尿道的注入療法 は,成人VURに対しても,続発性VURに対しても 有効であることが示唆される. 開腹による逆流防止術は侵襲性が高く,成人例では 小児例に比して膀胱の露出が困難であることや尿管, 膀胱後部の血管が豊富である点から手術の成功率は小 児例に比べ低いとされており9),また,膀胱拡大術で はイレウスや膀胱結石などの合併症が報告されてい る4). これらの手術療法に比べ経道的注入療法は低侵襲で あり1),短期間の入院で治療可能といった利点があ る. 注入物質としてはDeflux が本邦において唯一保険 適応とされており,開放手術の手術適応に準じgrade II∼IVのVURに適応となる10).注入方法としては, Andrew ら11)が2012年,278名の小児泌尿器科医を対 象に,STING 法,HIT 法,Double-HIT 法で術式選 択の頻度を比較した結果,Double-HIT法が最も多く 選択されていたとの報告がある.当院においても,小 児例,成人例共に,尿管口の水圧拡張が施行可能な症 例にはDouble-HIT法を選択している.今回の報告の 症例3では,水圧による尿管口の水圧拡張が不可能で あったため,Double-HIT 法ではなくSTING法を選 択した.症例3ではDouble-HIT法を選択できなかっ たことが術後fUTI発症の一因とも考えられる. 当院では,成人VURの治療方針として,膀胱容量 低下を認めた場合は抗コリン薬内服開始し,その後も
fUTIを繰り返す症例,抗生剤治療抵抗性である症例 を手術適応としており,grade I∼IVの VURに対す る第1選択として経尿道的Deflux 注入療法を施行し ている.今回の経験ではいずれの症例も1回の治療で VURの治癒を認めた.その後,術後3∼5年経過し た現在も頻回のfUTI発症や術後合併症なく経過良好 である.症例3のfUTI発症に関しては,術後3年の 経過中1度の発症のみであり,VUR再発とは考え難 いが,今後再度VCUGで逆流の評価をする方針であ る.また,小児例同様成人例においても遅発性の合併 症としての尿管閉塞が報告されているため9,12),いず れの症例も今後注意が必要である. 今回の結果より経尿道的Deflux注入療法は,軽度 の膀胱容量低下を伴う成人VURの手術療法として, 低侵襲であり,安全に行え,術後長期間においても fUTI再発を防ぐことが可能であると考えられたため, 手術法の選択として第一選択となりえることが示唆さ れた. 今後はさらなる症例による検討が必要である. 文 献 1) 相野谷慶子,井手迫俊彦,岡本伸彦,ほか : 小児 泌尿器疾患診療ガイドブック : 島田憲次編,初 版,pp 80-87,株式会社 診断と治療社,東京, 2015
2) Wang JB,Liu CS,Tsai SL,et al. : Augmentation cystoplasty and simultaneous ureteral reimplantation reduce high-grade vesicoureteral reflux in children with neurogenic bladder. J Chin Med Assec 74 : 294-297,2011
3) Morioka A,Miyano T,Ando K,et al. : Management of vesicoureteral reflux secondary to neurogenic bladder. Pediatr Surg Int 13 : 584-586,1998
4) 辻 克和,斉藤政彦,近藤 厚,ほか : 二分脊椎 症の膀胱尿管逆流と尿失禁 : 逆流根治術単独群と 逆流根治術,膀胱拡大術,スリング手術併用群と の比較.日泌尿会誌 89 : 43-49,1998 5) 岩井友明,内田潤次,山崎健史,ほか : 成人の膀 胱尿管逆流症に対して内視鏡的 Deflux 注入療法 を施行した 2 例.Jpn J Endourol 27 : 314,2014 6) 金丸聰淳,上山裕樹,牧野雄樹,ほか : 成人膀胱 尿管逆流に対する非動物由来安定化ヒアルロン酸 ナトリウム/デキストラノマー・ゲル(デフラッ クス TM)注入療法の経験.日泌尿会誌 103 : 254,2012
7) Misra D,Potts SR,Brown S,et al. : Endoscopic treatment of vesico-ureteric reflux in neurogenic bladder―8 Years’experience―. J Pediatr Surg 31 : 1262-1264,1996
8) Lee KS,Han DH,Jeong JY,et al. : Efficacy of endoscopic subureteral injection for vesicoureteral reflux in adults with decreased bladder compliance. Int J Urol 17 : 650-654,2010
9) Moore K and Bolduc S : Treatment of vesicoureteral reflux in adults by endoscopic injection. Urology 77 : 1284-1287,2011
10) 徳永正俊,宮北英司,窪田正幸,ほか : 小児膀胱 尿管逆流(VUR)診療手引き2016.日小児泌会 誌 25 : 47-122,2016
11) Kirsch AJ,Arlen AM,Lackgren G,et al. : Current trends in dextranomer hyaluronic acid copolymer (Deflux) injection technique for endoscopic treatment of vesicoureteral reflex. Urology 84 : 462-468,2014 12) Rosenberg S,Lorber A,Landau EH,et al. : Late ureteral obstruction in an adult who had STING/ Teflon in childhood : should we expect an epidemic ? Can Urol Assoc J 9 : 754-757,2015
(
Received on November 21,2016)
Accepted on March 29,2017 泌尿紀要 63巻 7 号 2017年