〈Articles〉Fair Value Measurements for Financial Reporting
21
0
0
Full text
(2) 第58巻. 1は. 第1号. じ. め. に. グ ロ ーバ ル な 資 本 市 場 の 存 在 は,二 つ の 主 要 な 財 務 報 告 制 度 に眼 差 しを 向 け させ る もの で あ る。 その 一 つ は,米 国 の一 般 に認 め られ た会 計 原 則(GAAP)で て,国 際 財務 報 告 基 準(IFRSs)が. あ る。 い ま一 つ と し. あ げ られ る。 グ ロー バ ル な 財 務 報 告 の 必 要 性 に した が っ. て,国 際 財 務 報 告 基 準 が きわ めて 重 要 視 され る位 置 を 占 めて い る。 財 務 報 告 の 目的 につ いて み る と,財 務 諸 表 利 用 者 の 経 済 的 意 思 決 定 に資 す る情 報 提 供 を あ げ る こ と が で き る。 国 際 財 務 報 告 基 準 の 「財 務 諸 表 の作 成 及 び表 示 に 関 す る フ レー ム ワ ー ク(1)」 に お い て は,財 務 諸 表 利 用 者 の た めの 経 済 的 意 思 決 定 に有 用 な 情 報 の 提 供 と と も に,経 営 者 の 受 託 責 任 ま た は 経 営 者 に委 託 さ れ た 資 源 に 関 す る説 明 責 任 の 結 果 につ い て も,財 務 諸 表 は 示 す もの で あ る と され る(2)。したが って,IASB概. 念 フ レー ム ワー ク にお. いて は,意 思 決 定 有 用 性 と受 託 責 任 が,財 務 報 告 の 目的 を 理 解 す る うえ で の キ ー ワー ドと な る。 財 務 情 報 と して,い か な る 内容 を 考 え るか につ いて は,種 々の 見 解 が あ る もの と予 測 さ れ る こ とが で き る。 こ こで は,財 務 情 報 は,現 行 の 財 務 内容 開 示 制 度 に基 づ く監 査 済 み 財 務 諸 表 に よ って 提 供 され る情 報 を さす 。 意 思 決 定 有 用 性 の 観 点 か ら財 務 内容 の 開 示 を 捉 え る と,企 業 の 経 済 的 実 態 を 適 切 に表 現 す る こ とが 財 務 情 報 に求 め られ,そ の た め に カ レン ト ・バ リュ ー に基 づ く測 定 が 行 わ れ る こ と とな る。 会 計 上 の 公 正 価 値 とそ の 測 定 は,財 務 会 計 基 準 審 議 会(FASB),国. 際会 計 基 準 審 議 会(IASB)等. の 基 準設 定 機 関 に よ って 公 表. さ れ た 会 計 基 準 の な か で,き. わ め て 重 要 な 位 置 を 占 め て い る。 す な わ ち,カ. レ ン ト ・バ. リュ ー に基 づ く測 定 の た め に機 能 す る概 念 と して,会 計 基 準 設 定 機 関 は公 正 価 値 概 念 を 重 視 す るの で あ る。 周 知 の よ う に,財 務 会 計 基 準 書 第157号. 「公正 価 値 測定(3)』が,2006年. (1)IASB,FrameworkforthePreparationandPresentationofFinancialStatements,1η'εr一 ηα"oηα1π η侃c'α1R6por"η85'侃4αr4∫(1FR8⑬)200只IASB,2009。. 企 業 会 計 基 準 委 員 会,財. 計 基 準 機 構 監 訳 『国 際 財 務 報 告 基 準(IFRS⑪)2009」 中 央 経 済 社,平 成21年 上 記 の 文 献 は,以 下,IASB概 念 フ レ ー ム ワ ー ク と記 す こ と と す る 。 (2)1わ 磁,par.12,par.14.同 (3)FASB,翫'r悔1配 2006. こ こ で は,上. 上 訳 書,73頁. 金子康則. 。. 記 の 文 献 が 財 務 会 計 基 準 書 第157号. と記 され て い る。. 『公 正 価 値 測 定 」 に つ い て は,下. 「公 正 価 値 測 定 と そ の 信 頼 性 」 友 杉 芳 正,田. 務 経 理 協 会,平. 務会. 。. ル1θ α棚r8〃1θη'&StatementofFinancialAccountingStandardsNo.157,. 財 務 会 計 基 準 書 第157号 浦崎直浩. に財 務 会 計 基 準 審. 成20年,所. 収,43-51頁. 記 の 文 献 を 参 照 した 。. 中 弘,佐. 。. 『公 正 価 値 会 計 の 実 務 』 中 央 経 済 社,平 -62(62)一. 成21年. 。. 藤倫正編. 『財 務 情 報 の 信 頼 性 」 税.
(3) 財 務 報 告 に お け る公 正 価 値 とそ の 測 定(山. 口). 議 会 に よ って 公 表 され て い る。 公 正 価 値 に関 す る定 義,公 正 価 値 とそ の 測 定 に関 す る問 題 の 考 察 に あ た り,財 務 会 計基 準 書 第157号 が,重 要 な 文 献 と して 位 置 づ け られ る こ と は い う まで もな い。 公 正 価 値 と その 測 定 を め ぐる諸 問 題 につ いて は,プ ロ ム ウ ィ チ,ウ ィ ッテ ィ ン トン,ア レク サ ンダ ー 等 に よ って 考 察 が行 わ れ て い る④。 こ こで 取 りあ げ る ウ ィル ソ ン の 所 説 も ま た,公 正 価 値 測 定 に関 す る 目的 適 合 性 と信 頼 性 につ いて 検 討 し,公 正 価 値 測 定 の 問 題 点 を指 摘 して い る(5)。 す な わ ち,ウ す る財 務 情 報 が,は. ィル ソ ンの 所 説 で は,公 正 価 値 測 定 を ベ ー ス と. た して 目的 適 合 性 と信 頼 性 を 有 す る情 報 とな り得 るか 否 か と い う問 題. を検 討 し,公 正 価 値 測 定 の 意 義 が 問 わ れ て い るの で あ る。 本 稿 は,(i)資 産 ・負 債 中心 観 と収 益 ・費 用 中心 観,(ii)財務 報 告 目的 と財 務 情 報 の 質 的 特 性,㈹ 公 正 価 値 測 定 に関 す る 目的 適 合 性 ・ 信 頼 性,こ. れ ら三 つ の 内容 か ら構 成 さ れ て い る。. 本 稿 の 主 要 な ね らい は,公 正 価 値 と その 測 定 に関 す る問 題 点 を 明 らか にす る こ と に あ る。. H資. 産 ・負債 中心観 と収益 ・費用 中心観. 資 産 ・負 債 中心 観 は,資 産 概 念 と負 債 概 念 を 第 一 義 的 な もの と し,利 益 概 念 を 純 資 産 の 変 動 の 差 額 概 念 と して 規 定 す る。 資 産 概 念 につ いて み れ ば,「資 産 と は,過 去 の 取 引 また は 事 象 の 結 果 と して,あ. る特 定 の 実 体 に よ り取 得 ま た は支 配 され て い る,発 生 の 可 能 性 の 高. い将 来 の 経 済 的 便 益 で あ る(6)」 と さ れ る。 こ の定 義 に お い て,資 産 に関 す る主 要 な 三 つ の 特. (4)プ. ロ ム ウ ィ チ,ウ. ィ ッ テ ィ ン ト ン に よ る 考 察 に つ い て は,下. 記 の 文 献 を あ げ る こ と が で き る 。. M.Bromwich,FairValues:ImaginaryPricesandMysticalMarkets,inP.Walton (ed.),71舵Ro磁. 」6486Co配. ραη'oη'o角. か 悔1κ6α. η4F加. 侃dα1、R6」 ρoπ'η8,Routledge,2007,pp。46-. 67. G.Whittington,AlternativetoFairValue,inP.Walton(ed。),τ 'o地. か 悔1配6α. 加R傭16486Co〃. D.Alexander,RecentHistoryofFairValue,inP.Walton(ed.),7み 'oη'o地. 所oη. θRo厩. 」8498Co即. αη一. か 悔 伽6α η4F'η αηc'α1R叩or珈g,Routledge,2007,pp.71-90.. ウ ィ ッ テ ィ ン ト ン,ア 山 口 忠 昭 2号(平. 脚. η4F'η αηc'α1R6ρoπ'η8,Routledge,2007,pp.181-195.. レ ク サ ン ダ ー の 所 説 に 関 し て は,下. 成20年12月),1-25頁. 山 口 忠 昭. 第3号(平. ぐ る 諸 問 題 一 剥 奪 価 値 説 と 剥 奪 価 値 概 念 の 再 解 釈 説 一 」. 成21年3月),88-95頁. 。. 「会 計 上 の 価 値 概 念 に 関 す る 考 察 討 一 公 正 価 値 一 」 『商 経 学 叢 」 第56巻. 22年3月),557-572頁. 第. 。. 「会 計 上 の 資 産 評 価 概 念 を め. 『企 業 会 計 』 第61巻 山 口 忠 昭. 記 の 拙 稿 を 参 照 さ れ た い 。. 「会 計 上 の 価 値 概 念 に 関 す る 再 検 討 一 剥 奪 価 値 と 公 正 価 値 一 」 『商 経 学 叢 」 第55巻. 第3号(平. 成. 。. (5)A.Wilson,TheRelevanceandReliabilityofFairValueMeasurement,inP.Walton (ed.),τ -209 .. 陀Ro厩16486Co配pα. η'oη'o地. か 悔1配6α. η4F'η. αηc'α1R6por励g,Routledge,2007,pp.196. (6)FASB,StatementofFinancialAccountingConceptsNo.6ElementsofFinancialStatements,1985,ε'α'8〃1θ 義 州 訳. 「FASB財. こ こ で は,上. η'3げF∫. η侃c'α 耐cco朋. 務 会 計 の 諸 概 念 」(増 記 の 文 献 が,FASB概. 伽gCoηcθp'3,IRWIN,1993,par.25.平. 補 版)中. 央 経 済 社,平. 念 報 告 書 第6号. 一63(63)一. 成14年,297頁. と し て 記 さ れ て い る 。. 松 一 夫,広 。. 瀬.
(4) 第58巻. 第1号. 性 が 示 さ れ て い る(7)。こ こ で 三 つ の 特 性 と は,(a)発 生 の 可 能 性 の 高 い 将 来 的 な 経 済 的 便 益,. (b)特定 の 実 体 に よ る便 益 の 実 質 的 支 配,(c)過 去 の 取 引 ま た は事 象 の 発 生 を さす 。 次 いで 負 債 概 念 につ いて み れ ば,「 負 債 とは,過 去 の取 引 ま た は事 象 の結 果 と して,特 定 の実 体 が, 他 の 実 体 に対 して,将 来,資 産 を 移 転 した り,用 役 の 提 供 を な す た め に現 在 の 債 務 か ら生 じる,発 生 の 可能 性 の 高 い将 来 の経 済 的便 益 の犠 牲 で あ る(8)」 と定 義 され る。 か か る資 産 概 念 ・負 債 概 念 の 定 義 に関 して は,経 済 的 特 性 ア プ ロー チ に基 づ くもの と して 特 徴 づ け る こ と が で き る(9>。. 収 益 ・費 用 中心 観 で は,適 正 な 期 間 損 益 計 算 を 行 う こ とが 第 一義 的 な もの と され,利 益 概 念 が 収 益 と費 用 の 差 額 概 念 と して 規 定 され る。 い う まで もな く,期 間 損 益 計 算 に関 して は,継 続 企 業 を前 提 と して,人 為 的 に区 画 され た一 定 期 間 ご との 成 果,つ. ま り損 益 を 計 算. し確 定 す る こ とが意 味 され る(1① 。 期 間損 益 計 算 を 目的 と して 措 定 し,そ の 目的 か ら計 算 技 術 的 に 資 産,負. 債,資. 本 を 規 定 し よ う と す る 思 考 は,計. 算 的 特 性 ア プ ロ ー チ(1Dと して 特 徴. づ け られ る も の で あ る 。. 現 在 の 企 業 会 計 の 動 向 に眼 差 しを 転 ず れ ば,金 融 商 品 に関 す る会 計 処 理 を は じめ,固 定 資 産 の 減 損 処 理 に関 す る会 計 基 準 等 に よ り,取 得 原 価 主 義 会 計(歴 史 的 原 価 主 義 会 計)の 枠 組 み の な か に時 価 概 念 が 導 入 され て い る。 したが って,現 在 の 会 計 モ デ ル は 「原 価 と時. (7)砺 諾par.26.同 上 訳 書,297-298頁 。 興 津 裕 康 「財 務 会 計 の 理 論 」 税 務 経 理 協 会,平 成12年,90-92頁 。 土 方 久 編 「貸 借 対 照 表 能 力 論 』 税 務 経 理 協 会,平 成5年,22-23頁 。 (8)FASB,op.c肱,par.35.平 松 一 夫,広 瀬 義 州 訳,前 掲 訳 書,301頁 。 (9)興 津 裕 康,前 掲 書,116-120頁 。 興 津 裕 康 「現 代 制 度 会 計 』 森 山書 店,平 成9年,81-86頁 。 上 記 の 文 献 にお い て,会 計 上 の 資 産 概 念 の 考 え 方 が,次 の 三 つ の ア プ ロー チ に 基 づ い て 整 理 さ れ て い る。 こ こ に三 つ の ア プ ロー チ とは,制 度 的=法 的 特 性 ア プ ロー チ,計 算 的 特 性 ア プ ロー チ, ⑩. 経 済 的 特 性 ア プ ロー チ を 意 味 す る。 興 津 裕 康 「二 十 世 紀 にお け る会 計 学 研 究 の 回 顧 とそ の 検 討 」 『會 計 』 第170巻 第4号(平 10月),8頁 。. 成18年. 期 間 損 益 計 算 に対 して,全 体 損 益 計 算 が あ げ られ る。 全 体 損 益 計 算 につ い て,次 の よ うな 興 味 深 い 指 摘 が 行 わ れ て い る。 す な わ ち,「これ は,企 業 の 設 立 か らそ の 終 結 つ ま り解 散 に 至 る まで を 一 つ の 期 間 と して そ こ にお い て 行 わ れ る損 益 計 算 で あ り ,一 般 に 全 体 損 益 計 算 と は,冒 険 貿 易 に み る損 益 計 算 の 形 態 と して 考 え られ て きた が,現 実 の 企 業 会 計 の 中 に あ る もの を 素 材 と して 着 想 し た と考 え る方 が説 得 力 が あ る よ う に思 わ れ る。 ドイ ツ の お け る十 九 世 紀 の株 式 会 社 の定 款 に は,会 社 の 存 続 期 間 を 記 載 して い る と こ ろ も多 くみ られ,こ の 存 続 期 間 を 全 体 期 間,存 続 期 間 の 一 つ を 期 間 損 益 計 算 の 対 象 とな る一 期 間 と して 考 え た 方 が 現 実 の 期 間 損 益 計 算 を 説 明 す るの に適 合 した 理 論 とな るの で は な か ろ うか 」(同 上 稿,8頁)と され る。 (ID興 津 裕 康,前 掲 書,86-88頁 。 動 態 論 にお い て は,期 間 損 益 計 算 の 思 考 を 計 算 構 造 的 に捉 え るた め,収 益 ・費 用 と収 入 ・支 出 の 組 合 せ か ら貸 借 対 照 表 の 構 造 が 明 示 され て い る。 す な わ ち,収 益 ・費 用 を 収 益 ・費 用 計 算,収 入 ・支 出 につ い て は 収 入 ・支 出 計 算(収 支 計 算)と し,こ の 二 つ の 計 算 か ら貸 借 対 照 表 の 構 造 が 把 握 され る こ と とな る。 興 津 裕 康 「貸 借 対 照 表 論 の 研 究 」 森 山 書 店,昭 和59年,19-47頁 。 一64(64)一.
(5) 財務報告にお ける公正価値 とその測定(山 口) 価 の 混 在 ス タ イル と して の 会 計 ⑫」 と して 捉 え られ る こ とが で き る。 ウ ィル ソ ンの 所 説 に よれ ば,伝 統 的 な 会 計 実 務 は,歴 史 的 原 価 を 基 底 と し,取 引 を べ 一 ス と した ア プ ロ ー チ(③に焦 点 が お か れ て いた と され る。 取 引 を べ 一 ス と した ア プ ロー チ に 基 づ く会 計 に お いて は,実 現 概 念,対 応 概 念,慎 重 性 概 念(保 守主 義 の 内 容 を 含 む)に よ っ て 支 え られ た会 計 モデ ル が 意 味 され る。 この 会 計 モデ ル は,伝 統 的 な 収 益 ・費 用 中心 観 に 基 づ く会 計 と いえ る。 ちな み に,伝 統 的 な 財 務 会 計 の フ レー ム ワー クか ら得 られ る会 計 情 報 の質 的 特 性 に つ い て み る と,そ の質 的 特 性 を真 実 性 と信 頼 性 に 求 め る こ とが 可 能 で あ るω。 これ に対 して,情 報 利 用 者 指 向的 会 計 で は,会 計 情 報 の 質 的 特 性 を 目的適 合 性 と信 頼 性 に求 め,意 思 決 定 有 用 性 との 関 連 に お いて 資 産 ・負 債 中心 観 が 展 開 され て い る⑮。 収 益 ・費 用 中心 観 か ら資 産 ・負 債 中心 観 へ の 重 点 移 動 につ いて み れ ば,そ の 動 き は,財 務 会 計 基 準 審 議 会 に よ る概 念 フ レー ム ワー ク と して,1970・80年. 代 に展 開 され た 文 献 の な. か にみ られ る。 す な わ ち,稼 得 利 益 に代 え て,包 括 利 益 概 念 の 採 用 は,収 益 ・費 用 中心 観 か ら資 産 ・負 債 中心 観 へ の推 移 の証 左 を示 す もの で あ る。FASB概. 念 報 告 書 第6号. は,次. の よ う に包 括 利 益 を 定 義 す る。 す な わ ち,「 包 括 利 益 とは,出 資 者 以 外 の源 泉 か らの取 引, その 他 の 事 象 お よ び環 境 要 因 か ら生 じる一 期 間 に お け る営 利 企 業 の 持 分 の 変 動 で あ る。 包 括 利 益 は,出 資 者 に よ る投 資 お よ び 出資 者 へ の 分 配 か ら生 じる もの 以 外 の,一 期 間 にお け る持 分 の 変 動 を含 む ⑯」 と され る。 そ して,包 括 利 益 概 念 は,財 務 会 計 基 準 書 第130号 『包 ⑫. 興 津 裕 康 「取 得 原 価 と時価 」 岸 悦 三 編 『近 代 会 計 の思 潮 』 同 文 舘,平 成14年,所 収,132-133 頁。 興 津 裕 康 「現 代 会 計 の 論 点 原 価 と時 価 の 混 在 す る 会 計 を 考 え る」 『企 業 会 計 』 第58巻 第11号 (平成18年11月),10-11頁 。 原 価 と時 価 の 混 在 ス タイ ル と して の 会 計 を 考 察 す る うえ で,次 の 文 献 にユ ニ ー クな 見 解 が 展 開 され て い る。. 中 野 勲 「時 価 一 原 価 ハ イ ブ リ ッ ド会 計 の論 理 に つ い て 」 『會 計 」 第167巻 第1号(平 成17年1 月),92-107頁 。 ⑱A.Wilson,oμcl乙,p.197. ⑭ 興 津 裕 康 「会 計 研 究 の 方 向 と して の 会 計 フ レー ム ワー ク」 『會 計 」 第148巻 第1号(平 成7年7 月),2-4頁,8頁 。 真 実 性 と信 頼 性 に関 して は,こ の 二 つ の 特 性 が 伝 統 的 な 会 計 フ レー ム ワー クを 形 成 して い る会 計 情 報 の 基 本 的 属 性 と され る見 方 が あ る。 す な わ ち,「 … … 会 計 行 為 は,『 会 計 情 報 の 作 成 者 」 の 視 点 か ら展 開 さ れ る もの で あ った 。 わ が 国 の 企 業 会 計 原 則 も こ れ に 類 す る もの で あ る。 そ こに は,会 計 情 報 の 作 成 者 を 起 点 とす る会 計 フ レー ム ワー クを み る こ とが で き る。 これ は,経 済 的 事 実 が 計 算 ル ー ル に よ り写 像 され,そ の結 果,得 られ る会 計 情 報 を,『 真 実 性 」 と 『信 頼 性 」 を ベ ー ス とす る会 計 情 報 の 質 的 特 性,つ ま り会 計 情 報 の 基 本 的 属 性 と して 考 え る こ とが で き る もの で あ る。 これ にみ る真 実 性 は,会 計 情 報 の 作 成 者 に と って,遵 守 しな けれ ば な らな い 会 計 情 報 の 質 的 特 性 と して 取 り上 げ られ る もの で あ り,信 頼 性 と と も に伝 統 的 な 会 計 フ レー ム ワー クを 形 成 して い る会 計 情 報 の 基 本 的 属 性 で あ る」(同 上 稿,2頁)と さ れ る。 真 実性 と信 頼 性 に 関 して は,下 記 の 文 献 にお い て も,同 一 の 見 方 が 述 べ られ て い る。 興 津 裕 康 「検 討 課 題 と して の財 務 会 計 の フ レー ム ワー ク」 『企 業 会 計 」 第48巻 第10号(平 年10月),4-5頁 。 ⑮ 興 津 裕 康,前 掲 稿,8-10頁 。 ㈹FASB,op.c'乙,par.70.平 松 一 夫,広 瀬 義 州 訳,前 掲 訳 書,320頁 。 -65(65)一. 成8.
(6) 第58巻. 第1号. 括 利 益 の報 告 ⑰』 に継 承 さ れ る こ とに な る⑱。 財 務 会 計 基 準 書 第130号 は,包 括 利 益 の 報 告 目的 と して,投 資 家,債 権 者 お よ び その 他 の 関 係 者 が 企 業 の 活 動 及 び将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー の タ イ ミ ング と大 き さの 評 価 す る 際 に資 す る もの と な る こ とを あ げ て い る⑲。 か く て,資 産 ・負 債 中心 観 に お いて は,包 括 利 益 概 念 が 重 視 され る こ と とな る。 ウ ィル ソ ンの 所 説 は,米 国 の 包 括 利 益 の 考 え 方 の 展 開 に お いて,エ. ドワー ズ ・ベ ル の 所. 説 ⑳ の 影 響 が み られ る と指 摘 す る⑳。 エ ドワー ズ ・ベ ル の 所 説 で は,資 産 の カ レ ン ト ・バ リュ ーの 変 動 と負 債 の カ レン ト ・バ リュー の 変 動 に着 目 し,経 営 利 潤(businessprofit) の 測 定 が 説 か れ て い る⑳。 こ こ に い う経 営 利 潤 は所 有 主 持 分 の変 動 を あ ら わ す も の で あ る㈱。 ウ ィル ソ ンは,エ ドワー ズ ・ベ ル の 所 説 にみ られ る価 値 の 変 動 の 捉 え 方 を 貸 借 対 照 表 ア プ ロ ー チ(balancesheetapproach)の. 適 用 とみ る。 貸 借 対 照 表 ア プ ロー チ は,財 務 諸. 表 の 構 成 要 素 を資 産 と負 債 の 観 点 か ら捉 え,利 益 の 認 識 を 純 資 産 の 増 加 と減 少 の 作 用 と し て 理 解 す る もの で あ る⑳。 新 た な 会 計 上 の 問題 が 提 起 され る と き,名. 目勘 定 か らな る抽 象. 的 計 算 に代 え て,実 在 勘 定 か らな る具 体 的 計 算 に眼 差 しが 向 け られ,貸 借 対 照 表 ア プ ロー チが 用 い られ る こ とに な る㈱。 貸 借 対 照 表 ア プ ロー チ は,実 在 勘 定 に基 づ く具 体 的 な 計 算 (測定)の 視 点 か ら貸 借 対 照 表 の 資 産,負 債,資 本 を 検 討 しよ う とす る もの で あ る。 した が って,実 在 勘 定 を 重 視 す る と い う意 味 に お いて,包 括 利 益 概 念 の 捉 え 方 に は,貸 借 対 照 表 ア プ ロ ー チ に よ る考 え 方 と相 通 ず る もの が あ る。 国 際 会 計 基 準 第1号. 『財 務 諸 表 の 表示 ㈱』 に よれ ば,「 包 括 利 益 合 計 とは,所 有 主 の 立 場. q7)FASB,R8por励gCo即rθhθ No.130,1997. こ こ で は,財 る 。 な お,財. η3'v81ηco耀,StatementofFinancialAccountingStandards. 務 会 計 基 準 書 第130号 務 会 計 基 準 書 第130号. FASB,Orlg1η01Proηo那. 「包 括 利 益 の 報 告 」 が 財 務 会 計 基 準 書 第130号 に つ き,下. と記 され て い. 記 の 文 献 を 参 照 した 。. ηcε耀 η'5,且cco醐 励83'α. η4α君45α5σ. ノ雌 ε1,2003,JohnWiley&. Sons,2003. ㈹. 包 括 利 益 の 定 義 に 関 して,財. 務 会 計 基 準 書 第130号. 利 益 の 定 義 と 同 一 の も の を 記 述 し て い る 。(砺. は,財. 務 会 計 概 念 報 告 書 第6号. に お け る包 括. 諾,par.8.). (19)1わ'諾,par.12. ⑳. エ ド ワ ー ズ ・ベ ル の 所 説 に 関 し て は,下 記 の 文 献 が あ げ ら れ て い る 。 E.0.EdwardsandP.W.Bell,7肋 τ陀oryα η4M6α5膨 〃36η'(ゾB諭 η6∬1ηco〃昭,Berkeley, UniversityofCaliforniaPress,1961.中 潤 計 算 』 日 本 生 産 性 本 部,昭. 西 寅 雄 監 修 伏 見 多 美 雄,藤. 和39年. 森 三 男 訳 編 『意 思 決 定 と 利. 。. ⑦1)A.Wilson,op.cl乙,p.197. ㈱E。0.EdwardsandP。W.Bell,op.d乙,pp。119-122.中 前 掲 訳 書,98-100頁 ㈱. 乃 諾,p.120.同 上 訳 書,99頁 AWilson,oμcl'.,p.198.. ㈱WT.Baxter,Acco配. 西 寅 雄 監 修 伏 見 多 美 雄,藤. η珈g嗣. 。 配83α 磁1姻. α"oη,McGraw-Hill,London,NewYork,1975,. P.19 物 価 水 準 変 動 下 に お け る 会 計 上 の 認 識,測 定,伝 達 の 問 題 の 検 討 に 際 して,バ は 主 に 貸 借 対 照 表 ア プ ロ ー チ を 用 い て,こ の 問 題 の 考 察 を 展 開 して い る。 (2③IASB,Pr636班. 森 三 男 訳 編,. 。. α'oηqプF1ηoηc1α13'o'ε配6班5,IAS1,2007./ -66(66)一. クス ター の 所 説.
(7) 財務報告にお ける公正価値 とその測定(山 口) と して の 所 有 主 との 取 引 に よ る資 本 の 変 動 以 外 の 取 引 又 は その 他 の 別 な 事 象 か ら生 じる一 期 間 の持 分 の変 動剛. と され る。 それ ゆ え に,包 括 利 益 の 考 え 方 につ い て み る と,国 際 会. 計 基 準 審 議 会 と財 務 会 計 基 準 審 議 会 の 両 者 は 同一 方 向 を 指 し示 して い る と いえ る。 IASB概. 念 フ レー ム ワー クに つ い て は,資 産 ・負債 の認 識 と測 定 を 第 一 義 的 な もの と し. て 焦 点 を あて る資 産 ・負 債 中心 観 が 重 くみ られ て い る。 その 理 由 と して,会 計 上 の 関 心 の 焦 点 が,プ. ロ ダ ク ト型 市 場 経 済 か らフ ァイ ナ ンス 型 市 場 経 済 に移 動 した こ とが 指 摘 で き. る。 か か る指 摘 は,生 産 ・流 通 重 視 に基 づ く収 益 ・費 用 中心 観 か ら金 融(信 用)重 視 に基 づ く資 産 ・負 債 中心 観 へ の 移 行 と み る もの で あ る㈱。 カ レ ン ト ・バ リュ ー の測 定 が 収 益 ・ 費 用 中心 観 の も とで 問 題 と され る と き,貸 借 対 照 表 の 非 貨 幣 性 資 産 が 主 に対 象 と され,プ ロ ダ ク ト型 市 場 経 済 を 背 景 と して 時 価 が 取 りあ げ られ た。 資 産 ・負 債 中心 観 の も とで の カ レ ン ト ・バ リュー の 測 定 は,貸 借 対 照 表 の 貨 幣 性 資 産(金 融 資 産)の 評 価 に力 点 を お くと み る こ とが で き る。 換 言 す れ ば,カ. レン ト ・バ リュー の 測 定 の た め に公 正 価 値 概 念 が と ら. れ,公 正 価 値 の 適 用 は金 融 財 に焦 点 が 置 か れ て い るの で あ る⑫9。か くて,経 済 基 盤,市 場 特 性 の 変 化 に対 応 して,会 計 上 の 関 心 の 焦 点 が 移 行 して い る こ とが 看 取 で き る。 伝 統 的 な 財 務 会 計 の フ レー ム ワー ク は,歴 史 的 原 価 に基 づ く思 考 を 中心 に,取 引 を べ 一 ス と した ア プ ロー チを と る もの で あ る。 ウ ィル ソ ンの 所 説 に お いて は,デ. リバ テ ィ ブ,固. 定 資 産 の 減 損 に関 す る会 計 上 の 問 題 を 処 理 す る に は,伝 統 的 な 財 務 会 計 の フ レー ム ワー ク で は限 界 が あ る と して,基 準 設 定 機 関 は資 産 ・負 債 の 認 識 と測 定 を 第 一 義 的 な もの と した 資 産 ・負 債 中心 観,な. らび に資 産 と負 債 の 測 定 の た めの 公 正 価 値 の 適 用 を 支 持 して い る と. され る⑳。 か か る公 正 価 値 の 適 用 につ いて,彼 の所 説 は,「 資 産 と負 債 を 『公 正 価 値 』 で 述 べ る と い う外 見 上 の 魅 力 は,理 解 可 能 で は あ る けれ ど も,こ れ が,実 務 上,何 を 意 味 す る か につ い て解 決 す る こ と は重 要 な論 点 で あ る㊨1)」 と し,カ レ ン ト ・バ リュ ー測 定 に 基 づ く. ＼. 上 記 のIAS第1号 『財 務 諸 表 の 表 示 』 に つ い て は,下 記 の 文 献 を 参 照 し た 。 IASB,1η'8rη α"oηα1F'ηαηdolR8por"ηg3'α η4α君45(1FR∫3)2009,IASB,2009.企 員 会,財. 務会計基準機構監訳. ⑳1わ14.,par.7.同 ⑳. 『国 際 財 務 報 告 基 準(IFRSs)2009』. 上 訳 書,812頁. ち な み に,財. 務 報 告 目 的,ア. 業会計基準委. 中 央 経 済 社,平. 成21年. 。. 。 プ ロ ー チ,財. 務 会 計 観 な い し 利 益 観,測. 定 属 性,利. 益 概 念,市. 場. 特 性 な ど の 視 点 か ら,収 益 費 用 学 派 と 資 産 負 債 学 派 の 特 徴 を 捉 え る 見 解 が あ る 。 収 益 費 用 学 派 に つ い て み れ ば,受 託 責 任,古 典 的 ア プ ロ ー チ(経 済 的 現 実 ア プ ロ ー チ),信 頼 性(客 観 性),収 益 費用中心観 投 資 情 報,利. 歴 史 的 原 価 測 定,稼. 得 利 益 が あ げ ら れ る 。 こ れ に 対 して,資. 用 者 指 向 ア プ ロ ー チ,目. 的 適 合 性(主. 観 性),資. 産 負 債 学 派 に つ い て は,. 産 負 債 中 心 観,市. 場 指 向 測 定,包. 括 利 益 が 示 され て い る。 ⑳. 津守常弘. 「会 計 基 準 形 成 の 論 理 」 森 山 書 店,平. 浦崎直浩. 「公 正 価 値 会 計 』 森 山 書 店,平. 成14年,241頁. 古賀智敏. 「公 正 価 値 の 考 え 方 」 「企 業 会 計 」 第62巻. 成14年,20-26頁. ㊤①A.Wilson,oμc肱,p.197. ㊤D1わ1紘,p.198. -67(67)一. 。 。. 第11号(平. 成22年11月),20-21頁. 。.
(8) 第58巻. 第1号. 財 務 情 報 の 目的 適 合 性,信 頼 性,理 解 可 能 性 にか か わ る問 題 が,公 正 価 値 の 適 用 に よ って 即 座 に解 決 され る もの で はな い とみ る。. 皿. 1財. 財務報告 目的 と財務情報の質的特性. 務 報 告 の 目的. す で に述 べ た よ う に,IASB概. 念 フ レー ム ワー クで は,意 思 決 定 有 用 性 と受 託 責 任 の 二. つ が,財 務 諸 表 の 目的 と して あ げ られ て い る。 こ こ に意 思 決 定 有 用 性 と測 定 概 念 の 関 連 に つ いて み れ ば,将 来 的 な 意 思 決 定 が 会 計 上 の カ レン ト ・バ リュー の 測 定 に結 びつ くこ と に よ り,い わ ゆ る時 価 概 念 に重 きが おか れ る。 受 託 責 任 と測 定 概 念 の 関 連 に関 して は,受 託 資 本 の 管 理 ・運 用 に関 す る事 実 を 財 務 的 側 面 か ら跡 づ け,そ れ を 開 示 す る こ とが 要 請 され るの で,取 引 発 生 の 事 実 を 写 し取 る測 定 概 念 と して,原 価 概 念 に重 きが お か れ る こ と とな る。 ウ ィル ソ ン の所 説 に お い て は,「 デ ィ ス カ シ ョ ンペ ー パ ー:財 務 報 告 の 概 念 フ レー ム ワ ー ク」 に つ い て,そ の 検 討 が 行 わ れ て い る勧。 彼 の 所 説 に した が え ば,「 デ ィ ス カ シ ョン ペ ーパ ー:財 務 報 告 の概 念 フ レー ム ワー ク」 に み られ る一 般 目的 の外 部 財 務 報 告 に 関 して, 一 般 目的 の た めの 外 部 財 務 報 告 の 目標 が ,投 資,与 信 及 び類 似 の 資 源 配 分 を 行 う うえ で, 現 在 及 び将 来 の 投 資 家,債 権 者 及 び その 他 の 利 用 者 に有 用 な 情 報 を 提 供 す る こ と に あ る と され る。 そ して,投 資 家,債 権 者 等 の 利 用 者 の 意 思 決 定 に資 す る情 報 提 供 と い う 目的 の 達 成 の た め に,財 務 報 告 で は,実 体 の 将 来 キ ャ ッシ ュ ・イ ン フ ロー とア ウ トフ ロー につ い て, 金 額,タ. イ ミ ング,不 確 実 性 を 評 価 す るの に役 立 つ 情 報 が 提 供 され るべ きで あ る とす る。. したが って,意 思 決 定 有 用 性 の 意 味 す る と こ ろが,正 味 キ ャ ッシ ュ ・フ ロー を 産 み だ す 実 体 の 能 力 の 評 価 にか か わ る もの とな り,そ の 評 価 に資 す る情 報 提 供 に求 め られ て い る。 意 思 決 定 有 用 性 に基 づ く情 報 が,将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロー の 予 測 に関 連 す る こ と にな るの で あ る。 か か る 「デ ィ ス カ シ ョンペ ー パ ー:財 務 報 告 の 概 念 フ レー ム ワー ク」 の 内容 につ い て,彼 の 所 説 は,財 務 報 告 の 目的 の 重 心 を 意 思 決 定 有 用 性 に お くこ と に よ り,受 託 責 任 を. ㊤2)1わ'諾,pp.198-199. 国 際 会 計 基 準 審 議 会 に よ る い て は,下. 「デ ィ ス カ シ ョ ン ペ ー パ ー:財. 務 報 告 の 概 念 フ レ ー ム ワ ー ク 」 に つ. 記 の 文 献 を さ す 。. DiscussionPaperPr6〃 R6」ρor伽8'7加0勿6c'lv6(ゾF加 F'η αηdolR6poπ'ηg1ガ. 配'ηαryV78w30η 侃clα1R61フor伽8α ∂r配 α"oη(IASBJuly2006).. -68(68)一. 朋1配. μoy64Coηc8μ. η49肥. 照1Frα. 配8worた. ノ∂rF'η. 〃'α"y6C肋rαc'6rl∫'lc∫qプD6cl∫'oη. 朋dol 一麗5の1.
(9) 財 務 報 告 に お け る公 正 価 値 とそ の 測 定(山. 口). 財 務 報 告 の 目的 か ら取 り除 くこ とが 正 当化 され て い る と指 摘 す る㈱。 ちな み に,財 務 報 告 の 目的 を 情 報 利 用 者 の 意 思 決 定 有 用 性 にお き,将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ーの 予 測 を取 りあ げ る文 献 と して,FASB概. 念 報 告 書 第7号. 『会 計 測 定 にお け るキ ャ ッ. シ ュ ・フ ロ ー情 報 お よ び現 在 価 値 の使 用⑳』 を あ げ る こ とが で き る。FASB概. 念報告書第. 7号 で は,現 在 価 値 の 測 定 に お いて,将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロー に見 積 な どの 五 つ の 要 素 を 包 摂 す る必 要 が あ る とす る㈲。 プ ロ ム ウ ィチ の所 説 に よ る と,現 在 価 値 測 定 に お け る五 つ の 要 素 は,FASB概. 念 報 告 書 第1号. 「営 利 企 業 の財 務 報 告 の基 本 目的醐. 報 告 の 目的 をベ ー ス に した もの で あ る と指摘 す る⑳。FASB概. で 示 され た 財 務. 念 報 告 書 第1号. にみ られ る. 基 本 目的 に関 して は,投 資 者,債 権 者 を は じめ と した情 報 利 用 者 の 意 思 決 定 に資 す る情 報 提 供,企 業 が 創 出す る キ ャ ッシ ュ ・フ ロー に関 す る情 報 の 開 示 に財 務 報 告 の 目的 が お か れ て い る㈱。 した が って,「 デ ィス カ シ ョ ンペ ーパ ー:財 務 報 告 の概 念 フ レー ム ワー ク」 は, 財 務 報 告 に関 す る 目的 の 重 きを 意 思 決 定 有 用 性 に お き,将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロー の 予 測 を 重 視 す る こ とか ら,「デ ィス カ シ ョンペ ー パ ー:財 務 報 告 の 概 念 フ レー ム ワー ク」 とFASB 概 念 報 告 書 の 両 者 に は,財 務 報 告 の 目的,公 正 価 値 の 適 用 の 方 向 性 にお いて,類 似 性 が み い だ され る と いえ る。. 2財. 務 情 報 に関 す る質 的 特 性. 「概 念 フ レ ー ム ワ ー ク」 の 設 計 に つ い て,こ て 整 理 す る 見 解 が あ る ㈱。 こ の 見 解 で は,プ 視 の フ レ ー ム ワ ー ク,エ. れ を 三 つ の ス タ ン ス(取. り組 み 姿 勢)に. ロ セ ス 重 視 の フ レ ー ム ワ ー ク,エ. よっ. ク ジ ッ ト重. ン ト リー 重 視 の フ レー ム ワ ー ク の 三 つ が 挙 げ ら れ て い る 。 第 一 の. ス タ ン ス と して の プ ロ セ ス 重 視 の フ レー ム ワ ー ク は,会. 計 行 為 の プ ロセ ス に重 点 を お いて. 設 計 す る も の で あ る 。 第 二 の ス タ ン ス の エ ク ジ ッ ト重 視 の フ レー ム ワ ー ク で は,会. 計行為. ㊤31わ'諾,P.199. ㊤のFASB,StatementofFinancialAccountingConceptsNo.7UsingCashFlowInformationandPresentValueinAccountingMeasurement,2000,5'α'翻6酪(ゾF伽. ηclα1Acco襯. 'η8Coηcεp'&JohnWiley&Sons,NewYork,2000.平 の 諸 概 念 」(増. 補 版)中. 央 経 済 社,平. 上 記 の 文 献 は,FASB概 ㈲Ibid。,par.23.同. 松 一 夫,広 成14年. 念 報 告 書 第7号. 上 訳 書,431頁. 瀬 義 州 訳. 『FASB財. 。 と記 す こ と と す る 。. 。. ⑳FASB,StatementofFinancialAccountingConceptsNo.10bjectivesofFinancialReportingbyBusinessEnterprises,1978,ε'α'α. ηθ班3の. Wiley&Sons,NewYork,2000.平 中 央 経 済 社,平. 成14年. 上 記 の 文 献 は,FASB概. 松 一 ・夫,広. ρFゴηαηc'α1Acco配. 瀬 義 州 訳. 『FASB財. η〃ηgCoηc8μ5,John. 務 会 計 の 諸 概 念 」(増. 。 念 報 告 書 第1号. と記 す こ と と す る 。. ⑤のM.Bromwich,oρ.cl乙,p.56. ㈱FASB,op.c肱,p.2。 ⑳. 武 田 隆 二. 平 松 一 夫,広. 瀬 義 州 訳,前. 「会 計 学 一 般 教 程 」(第7版)中. 掲 訳 書,7頁. 央 経 済 社,平. 一69(69)一. 。. 成20年,108-111頁. 。. 一. 務 会 計. 補 版).
(10) 第58巻. 第1号. の 最 終 段 階 で ア ウ トプ ッ トさ れ た 情 報 に 重 点 を お き,概. 念 フ レー ム ワ ー ク の 設 計 が 行 わ れ. る 。 第 三 の ス タ ン ス の エ ン ト リー 重 視 の フ レー ム ワ ー ク は,デ. ー タ の イ ン プ ッ ト段 階 の 記. 録 の 証 拠 性 に重 点 を お いて 設 計 す る もの で あ る。 会 計 行 為 は 目 的 指 向 的 な 行 為 で あ る 。 す な わ ち,会 る た め に,特. 定 の デ ー タ を 識 別,測. 定 し,利. る一 定 の 目的 を 達 成 す. 害 関 係 者 に有 用 な 情 報 を 伝 達 す る一 連 の 行 為. を さ す 。 エ ク ジ ッ ト重 視 の フ レー ム ワ ー ク は,会 さ れ た 情 報 の 有 す る 特 質 を 取 り あ げ,情. 計 行 為 は,あ. 計 行 為 の 最 終 段 階 に お い て ア ウ トプ ッ ト. 報 特 性 を 充 足 す る よ うな 会 計 を 求 め る ア プ ロー チ. で あ る ㈹。 エ ク ジ ッ ト重 視 の フ レ ー ム ワ ー ク の 例 と し て,FASB概. 念 報 告 書 第2号. 「会 計. 情 報 の 質 的 特 徴 ω」 が あ げ られ る 幽。 ソ ロ モ ン ズ ・リ ポ ー ト㈹ に お け る 会 計 情 報 の 質 的 特 性 も ま た,エ. ク ジ ッ ト重 視 の フ レー ム ワ ー ク に 基 づ く試 み と して 整 理 さ れ る こ と が で き る 。. そ こ で,会 FASB概. 計 情 報 の 質 的 特 性 に 関 し て は,特. 念 報 告 書 第2号. IASB概. に 目 的 適 合 性 と 信 頼 性 に 的 を 絞 っ て,. と ソ ロ モ ン ズ ・ リ ポ ー トの 所 説 を 取 り あ げ て み よ う。 そ し て,. 念 フ レ ー ム ワ ー ク 等 を 考 察 す る た め に,ウ. (1)FASB概. 念 報 告 書 第2号:会. 1980年 に公 表 され たFASB概. ィ ル ソ ン の 所 説 に つ い て み て み よ うω。. 計 情報 の質 的特 徴. 念 報 告 書 第2号. にお い て,会 計 情 報 の 質 的 特 徴 に 関 す る. 階 層 構 造 が あ らわ され て い る㈲。 会 計 情 報 の 質 的 特 徴 に関 す る階 層 構 造 を み る と,情 報 利 用 者 に固 有 の 質 と意 思 決 定 に固 有 な質 と に 区別 が 行 わ れ て い る。 す な わ ち,情 報 利 用 者 に 固 有 の特 性 に理 解 可 能 性 を あ げ,意 思 決 定 に固 有 の 基 本 的 属 性 と して 目的 適 合 性 と信 頼 性 が 示 され て い るの で あ る。 目 的 適 合 性 は,予 測 価 値,フ. ィ ー ドバ ック価 値,適 時 性 を 下 位 属 性 とす る。 信 頼 性 につ いて. は,検 証 可 能 性,表 現 の 忠 実 性 が 下 位 属 性 と され て い る。 副 次 的 か つ 相 互 作 用 的 特 性 に, 比 較 可 能 性,中 立 性 が あ げ られ て い る。. ㈹. 同 上 書,109頁. 。. ωFASB,StatementofFinancialAccountingConceptsNo.2QualitativeCharacteristics ofAccountingInformation,1980,8'α 疏 傭3(ゾ 翫 αηdα1Acco瀦1η8Coηc6μ3,IRWIN,1993. 平 松 一 夫,広 瀬義州訳 上 記 の 文 献 は,FASB概 働. 武 田 隆 二,前. ⑬D.Solomons,σ こ こ で は,上 ωFASB概. 「FASB財 務 会 計 の 諸 概 念 』(改 訳 新 版)中 念 報 告 書 第2号 と記 す こ と と す る 。. 掲 書,108-109頁. 央 経 済 社,平. 成6年. 。. 。. 磁8伽83ヵrF伽 ηclolR8por伽g3'α η4α曲,ICAEW,1989. 記 の 文 献 を ソ ロ モ ン ズ ・ リポ ー ト と 記 す こ と と す る 。. 念 報 告 書 第2号. と ソ ロ モ ン ズ ・ リ ポ ー トの 会 計 情 報 の 質 的 特 性 に 関 し て は,下. 記の拙. 稿 が ベ ー ス と され て い る。 山 口 忠 昭 「外 部 財 務 報 告 に 関 す る 諸 問 題 」 『京 都 学 園 大 学 経 営 学 部 論 集 」 第14巻 16年7月)。 ㈲FASB,op.c'乙,par.32.平. 松 一 夫,広. 瀬 義 州 訳,前 -70(70)一. 掲 訳 書,76-77頁. 。. 第1号(平. 成.
(11) 財務報告にお ける公正価値 とその測定(山 口) 目的 適 合 性 に関 して は,「 情 報 利 用 者 が,過 去,現 在,将 来 の事 象 を 予 測 した り,あ る い は事 前 の 予 測 を 確 認 した り訂 正 した りす る こ とを 助 け る こ と に よ って,意 思 決 定 に影 響 を与 え る能 力 ㈹」 と定 義 さ れ る。 信 頼 性 は,「 情 報 に は,ほ とん ど誤 謬 や 偏 向 が 存 在 して い な い こ と,ま た表 現 しよ う とす る もの を忠 実 に表 現 して い る こ と を保 証 す る能 力 剛. と定. 義 され て い る。 目的 適 合 性 と信 頼 性 と い う両 者 の 質 的 特 性 は,会 計 情 報 の 基 本 的 特 性 とな る⑱。 したが って,こ の二 つ の う ち,ど ち らが欠 け て も会 計 情 報 と して も意 義 を失 う もの とな る。 な お,目 的 適 合 性 と信 頼 性 の 両 者 の 水 準 が 一 定 レベ ル で 確 保 され た うえ で,両 者 の 間 に は,ト. レー ド ・オ フの 問 題 が 生 ず る。. ちな み に,目 的 適 合 性 と信 頼 性 の 二 つ を 意 思 決 定 に固 有 な 質 とす る こ と に よ り,有 用 性 の 質 を捉 え る見 方 に対 して,批 判 的見 解 が あ る。 この見 解 で は,「 も と も と有 用 性 の 概 念 は 情 報 の 受 け手 側 に お け る情 報 利 用 に関 連 した概 念 で あ るの に対 し,目 的 適 合 性 は送 り手 側 の 情 報 課 題 あ り,信 頼 性 は 目的 適 合 性 を 有 用 性 に移 行 す る た めの 橋 渡 し概 念 で あ る こ と に 注 意 しな け れ ば な らな い綱. と さ れ る。 す な わ ち,有 用 性 は情 報 の利 用 者 側 に,目 的 適 合. 性 は情 報 の 作 成 者 側 に あ る と し,信 頼 性 が 目的 適 合 性 を 有 用 性 に移 行 す るた めの 橋 渡 し概 念 と して 整 理 され て い る。 そ して,「情 報 の作 成 者 と利 用 者,こ の 二 者 の 中間 に情 報 の 信 頼 性 に保 証 を付 与 す る媒 介 者(公 認 会 計 士)と. い う三 層 間 の 情 報 の 流 れ と して み る と き,そ. れ らの 情 報 授 受 の 主 体 と関 連 して 情 報 の 質 が 定 ま って くる剛 と さ れ る。 した が っ て,利 用 命 題 と して の 有 用 性,作 成 命 題 と して の 目的 適 合 性 お よ び橋 渡 命 題 と して の 信 頼 性 の 三 つ の 質 につ いて は,こ れ ら三 つ を 上 位 ・下 位 の 関 係 と して 把 え られ るべ き概 念 で はな い と さ れ る見 解 が 説 か れ て い る。. (2)ソ. ロ モ ンズ ・リポー ト:会 計 情 報 の 質 的 特 性. 情 報 の 利 用 目的 は,情 報 が 具 備 しな けれ ばな らな い質 を 決 定 す る。 財 務 報 告 の 主 要 目的 が 情 報 利 用 者 の意 思 決 定 に 資 す る た め の情 報 提 供 に お か れ る な ら ば,何 を 報 告 す べ きか (報告 内容),ま. た その 報 告 を いか に行 うべ きか 等 の 決 定 に あ た って,意 思 決 定 に役 立 ち う. る財 務 情 報 の 有 用 性 が 主 要 な 質 とな る61)。. ㈲1わ. 観,p.33.同. 上 訳 書,60頁. 。. ⑳1わ. 泓,p.34.同. 上 訳 書,60頁. 。. ㈱. 砺 諾,par.33.同. ㈹. 武 田隆 二. ⑲. 同上。. 上 訳 書,76-78頁. 。. 「会 計 情 報 基 準 の 体 系 化 」 「企 業 会 計 」 第35巻. 6DD.Solomons,ル1砒'η8Accoκ 1986,p.86.加 藤盛弘監訳. 第7号(昭. 和58年7月),26頁. 班'η8Po1'cy,OxfordUniversityPress,NewYork・Oxford, 『会 計 原 則 と会 計 方 針 』 森 山 書 店,平 成2年,93頁 -71(71)一. 。. 。.
(12) 第58巻 ソ ロ モ ン ズ ・ リ ポ ー トで は,会 性,中. 立 性,実. 行 可 能 性,重. 第1号. 計 情 報 の 質 的 特 性 に つ い て,目. 頼 性,継. 要 性 が 列 挙 さ れ て い る 。 こ れ らの 質 的 特 性 の う ち,目. 性 が 中 心 を な す も の と して 捉 え られ て い る 。 な ぜ な ら,会 適 合 しな け れ ば,た. 的 適 合 性,信. 続. 的適合. 計情報が情報利用者のニ. と え 目 的 適 合 性 以 外 の い か な る 質 的 特 性 を 有 す る と して も,そ. ズに の情報. は 利 用 者 に よ っ て 棄 却 さ れ る も の と な る か らで あ る 。 ソ ロ モ ン ズ ・ リ ポ ー トに よ れ ば,情. 報 は,意. 思 決 定 者 の おか れ た 状 況 に 目的 適 合 性 を 有. す る も の で な け れ ば な らな い と さ れ る 働。 す な わ ち,目 者 が 将 来 の 予 測 を 形 成 し,確 が 過 去 の 事 象 に つ い て,事. 認 し た り,あ. 的 適 合 性 の 定 義 に は,(イ)意 思 決 定. る い は 訂 正 す る の に 役 立 つ 能 力,(ロ)意 思 決 定 者. 前 の 予 測 を 確 認 し た り,あ. る い は 訂 正 す る の に 役 立 つ 能 力,こ. れ ら二 つ が 内 容 と さ れ る ㈹。 こ の 定 義 の(イ)につ い て み る と,そ れ て い る 。 す な わ ち,会. 計 上 の 財 務 情 報 は 予 測 価 値 を 有 す る の で,情. 的 適 合 性 と い う 質 を も つ こ と が 意 味 さ れ て い る 。 な お,適. は,予. 去 の 結 果 に関 す る予 測 を 確. 来 の 予 測 あ る い は過 去 の 事 象 につ いて の 事 前 的 予 測. に 関 す る 確 認 価 値(confirmatoryvalue)と 認 価 値,訂. 訂 正 価 値(correctivevalue)が. 正 価 値 の 三 つ が 目 的 適 合 性 を 構 成 す る 要 素(下. る 融。 こ れ ら三 つ の 他 に,目 的 適 合 性 の 構 成 要 素(下 が あ げ られ る 。 な ぜ な ら,意 れ ば,そ. ず しも計. 前 の 予 測 を 訂 正 す る た め の 基 礎 を 提 供 す る こ と が 意 味 さ れ る 。(イ)と(ロ)の内 容 に. 測 価 値(predictivevalue),将. 測 価 値,確. 報 利 用 者 に と って 目. 合 性 を も つ 情 報 は,必. 量 可 能 性 を 必 要 と す る も の で は な い 。 定 義 の(ロ)に関 して は,過 認 し,事. れ は事 前 的 内容 が あ らわ さ. 位 属 性)と. 思 決 定 者 が 必 要 と す る 時 点 に,情. 含 ま れ,予. 位 属 性)と. し て,適. され て い. 時 性(timeliness). 報 が 利 用 可 能 な 状 態 にな け. の 情 報 は意 思 決 定 者 に役 立 つ 能 力 を 持 たな い こ と にな るか らで あ る。 適 時 性 と信. 頼 性 に つ い て み る と,両 信 頼 性 は,表. 者 に は ト レー ド ・オ フ の 関 係 が み られ る㈲。. 現 す べ き こ と が 誠 実 に 表 示 さ れ て い る こ と を 意 味 す る 。 そ して,誠. 示 さ れ て い る こ と が,合. 理 的 に 保 証 さ れ,信. 人 に よ っ て 検 証 さ れ る こ と に よ り,合 トに よ れ ば,描. 実 に表. 頼 性 が 付 与 さ れ る こ と に な る 。 独 立 した 監 査. 理 的 な 保 証 が 生 ず るの で あ る。 ソ ロモ ン ズ ・リポー. 写 し よ う と す る 対 象 に つ い て,情. 報 が 忠 実 に 表 示 して い る こ と を,情. 報利. 勧D.Solomons,op.c肱,p.31. ㈹ 砺 諾 (54)1わ'諾,p.30. ち な み に,FASB概 に す る 情 報 の 質 を,フ. 念 報 告 書 第2号. は,利. 用 者 が 事 前 の 見 込 み を 確 認 し,訂. 正 す る こ とを 可 能. ィ ー ドバ ッ ク 価 値 と さ れ て い る 。 予 測 価 値 が 事 前 的 内 容 を,フ. ク 価 値 は 事 後 的 内 容 に か か わ り を も つ も の で あ る 。(FASB,op.c鵡pars.51-53.前 頁) ㈲D.Solomons,op.c肱,p.31. -72(72)一. ィ ー ドバ ッ. 掲 訳 書,87-88.
(13) 財 務 報 告 に お け る公 正 価 値 とそ の 測 定(山 用 者 が 合 理 的 に 確 信 す る な ら ば,そ て 信 頼 性 は 複 雑 な 質 で あ り,三 つ い て は,表 ness),検. (3)ウ FASB概. の 会 計 情 報 は 信 頼 で き る も の で あ る と さ れ る ㈹。 そ し. つ の 要 素(下. 位 属 性)を. 有 す る と さ れ る 勧。 三 つ の 要 素 に. 現 の 忠 実 性(representationalfaithfulness),包. 証 可 能 性(verifiability)が. 口). 括 性(comprehensive-. あ げ ら れ て い る ㈱。. ィル ソ ンの 所 説 念 報 告 書 第2号. と ソ ロモ ンズ ・リポー トに お け る会 計 情 報 の 質 的 特 性 につ いて. は,エ ク ジ ッ ト重 視 の フ レー ム ワー ク と して 特 徴 づ け る こ とが で き る。 そ して,利 用 者 の 意 思 決 定 に有 用 な 財 務 情 報 提 供 に お いて,目 的 適 合 性 と信 頼 性 が 土 台 を な す 質 的 特 性 と し て あ げ られ る こ と とな る。 IASB概. 念 フ レー ム ワー クで は,財 務 諸 表 の質 的特 性 と して信 頼 性 を あ げ,次 の よ う に. 述 べ る。 す な わ ち,情 報 が 有 用 で あ る た あ に は信 頼 し得 る もの で な けれ ば な らな い と さ れ,「 情 報 は,重 大 な誤 謬 及 び 偏 向 が 除去 され,ま. た,そ れ が表 示 しよ う とす るか,あ. る. い は表 示 され る こ とが 合 理 的 に期 待 され る事 実 を 忠 実 に表 現 す る場 合 に,信 頼 性 の 特 性 を 有 す る剛. と して,誤 謬 と偏 向 が 存 在 しな い こ と,並 び に 表 現 の 忠 実 性 に か か わ る こ とが. 説 明 され て い る。 つ いで,「 目的適 合 性 を有 して い る が,性 質 又 は表 現 にお いて 信 頼 性 を 有 しな い情 報 を認 識 す る こ と は,判 断 を 誤 らせ る可 能 性 が あ る。 た とえ ば,損 害 請 求 の 妥 当 性 と その 金 額 が 訴 訟 で 争 わ れ る場 合 に は,企 業 が その 損 害 請 求 の 金 額 と状 況 を 開 示 す る こ と は適 切 で あ って も,貸 借 対 照 表 に 当該 請 求 額 の す べ て を 認 識 す る こ と は適 切 で な いか も しれ な い㈹」 と し,財 務 諸 表 利 用 者 を誤 導 す る よ うな 可 能 性 の あ る事 象 に つ い て は,会 計. ⑤鋤1∂'4.,P.32. 6の1わ 泓 厨 砺 諾 ソ ロモ ン ズの 所 説 にお い て,表 現 の 忠 実 性,包 括 性,検 証 可 能 性 が,次 の よ う に説 明 され て い る。 表 現 の 忠 実 性 につ い て は,あ る測 定 値 ま た は 記 述 と,そ れ らが 表 示 し よ う とす る経 済 事 象 と の 間 に 実 質 的 な 一 致(対 応)の あ る こ とが 意 味 され る。 会 計 情 報 は,測 定 プ ロセ スへ の イ ン プ ッ トが,望 ま しいア ウ トプ ッ トを もた らす よ うに 適 切 に選 択 され て い る場 合 にの み 信 頼 で き る。 包 括 性 につ いて は,ど の よ うな 事 象 も忠 実 に 表 示 す るに 際 して は,表 示 は完 全 で あ る とい う こ とが 意 味 され る。 しか し,完 全 性 は 相 対 的 な 意 味 を もつ 用 語 で あ る。 企 業 の 財 政 状 態 に関 す る広 範 囲 にわ た る真 実 な 表 示 につ いて は,重 要 性 の 原 則 が 作 用 し,相 対 的 な 意 味 を もつ 完 全 性 が 保 た れ る こ と にな る。 表 現 の 忠 実 性 の 要 求 す る もの は,目 的 適 合 的 な 情 報 に お い て,重 要 な 省 略 が 存 在 しな い とい う こ とで あ る。 検 証 可 能 性 は,利 用 者 に と って,情 報 の 真 実 性 を 合 理 的 に保 証 され う る性 質 が 要 請 され る こ とを 意 味 す る もの で あ る。 検 証 可 能 性 に関 して は,個 別 の 実 証 を 可 能 と させ る情 報 の 質 を 形 成 す る。 した が って,検 証 可 能 性 は,信 頼 性 を 支 え る重 要 な 要 素 の 一 つ とい え る。 ⑲IASB,op.c肱,par。31.企 業 会 計 基 準 委 員 会,財 務 会 計 基 準 機 構 監 訳,前 掲 訳 書,76頁 ㈹ 砺4.,par.32.同 上 訳 書,76頁 。 一73(73)一. 。.
(14) 第58巻. 第1号. 上 の 認 識,測 定,開 示 に慎 重 な 姿 勢 を と る こ とが 適 切 で あ る とす る。 ウ ィル ソ ンの 所 説 に お いて は,「 デ ィス カ シ ョ ンペ ーパ ー:財 務 報 告 の 概 念 フ レー ム ワー ク」 が,信 頼 性 に代 え て,表 現 の忠 実 性 とい う質 的 特 性 を 重 視 す る も の で あ る とす る。 「デ ィ ス カ シ ョ ンペ ー パ ー:財 務 報 告 の概 念 フ レー ム ワ ー ク」 に い う表 現 の忠 実 性 に つ い て は,財 務 報 告 に お け る会 計 上 の 測 定 あ る い は記 述 と,そ れ らが 表 現 しよ う とす る経 済 的 事 象 とが 対 応 も し くは一 致 す る こ とで あ る と し,表 現 の 忠 実 性 の 占 め る位 置 が 重 くみ られ て い る と,彼 は指 摘 す る㈹。 す で に み た よ うに,FASB概. 念 報 告 書 第2号. と ソ ロモ ンズ ・. リポ ー トに お いて は,表 現 の 忠 実 性 が,信 頼 性 を 構 成 す る要 素(下 位 属 性)と. して 位 置 づ. け られ て い る。 彼 の 所 説 に よ る と,「 デ ィス カ シ ョンペ ーパ ー:財 務 報 告 の 概 念 フ レー ム ワ ー ク」 に お いて,表 現 の 忠 実 性 の 重 視 と と も に,信 頼 性 の 占 め る位 置 の 後 退 が み られ る とす る。 その 理 由 と して,信 頼 性 の 重 視 は,公 正 価 値 測 定 の 更 な る拡 張 の 障 害 とな る こ と が あ げ られ て い る㈹。 公正 価 値 測 定 の更 な る拡 張 とは,信 頼 性 の あ る公 正 価 値 の見 積 が 入 手 不 能 な 領 域 に まで 及 ぶ こ とを 意 味 す る。 したが って,目 的 適 合 性 を 有 す る けれ ど も,性 質 又 は表 現 に お いて 信 頼 性 を 有 しな い情 報 を 認 識 す る こ と に よ って,判 断 を 誤 らせ る可 能 性 は あ る とす る こ とが 前 提 と され る と,公 正 価 値 測 定 の 更 な る拡 張 は,信 頼 性 の 質 的 特 性 をパ ス しな い こ と にな る。 こ こ に,公 正 価 値 測 定 に関 す る信 頼 性 の 問 題 が 浮 上 す る こ と と な る。. IV公. 1公. 正価値測定 に関する 目的適合性 ・信頼性. 正 価 値 測 定 に関 す る 目的 適 合 性. 資 産 の カ レ ン ト ・バ リュー の 測 定 に は,三 つ の 測 定 概 念 を あ げ る こ とが で き る。 こ こ に い う三 つ の 測 定 概 念 と は,取 替 原 価(RC),正. 味 実現 可 能 価 値(NRV),使. 用 価 値(PV). を さす 。 これ ら三 つ の 測 定 概 念 に よ って 現 有 資 産 を 評 価 す る と き,資 産 の 購 入,売 却,利 用 と い う事 実 を反 映 す る価 値 が 表 現 され る こ と にな る。 そ して,こ の 三 つ の 測 定 概 念 につ いて は,RCが. 入 口価 値 を,NRVとPVが,そ. れ ぞ れ 出 口価 値 と使 用 価 値 を あ らわ す こ. と とな る。 財 務 会 計 基 準 書 第157号 で は,「 公 正 価 値 と は,測 定 日 にお け る市 場 参 加 者 間 の 通 常 の 取 引 に よ って,資 産 の 売 却 に よ り受 領 す るか も し くは負 債 の 移 転 の た め に支 払 う価. 6DA.Wilson,oμc肱,p.202. ㈹1わ1紘. 一74(74)一.
(15) 財務報告にお ける公正価値 とその測定(山 口) 格 で あ る㈹」 と定 義 され て い る。 公 正 価 値 測 定 に 関 して は,実 体 固 有 性 の観 点 よ りも,市 場 をべ 一 ス とす る観 点 か らの 測 定 が と られ る。 す な わ ち,市 場 の 観 点 か らの 測 定 で は,市 場 概 念 と市 場 参 加 者 の 概 念 を 介 す る こ と に よ り,非 実 体 固 有 性 に基 づ く測 定 が 行 わ れ,出 口価 格 が 適 用 され る。 ウ ィル ソ ンは,公 正 価 値 測 定 と 目的 適 合 性 にか か わ る問 題 を 検 討 して い る。 こ こで は, 彼 に よ る問 題 点 の 指 摘 と して,次 の 三 つ を あ げて み よ う。 第 一 は,公 正 価 値 の 優 位 性 の 説 明 に 関 して,そ の 妥 当性 を 問 う指 摘 が行 わ れ て い る。 ウ ィル ソ ンの 所 説 に よ る と,国 際 会 計 基 準 審 議 会 の 立 場 で は,公 正 価 値 を 最 も 目的 適 合 的 な 測 定 基 礎 と して 捉 え る こ と に よ り,公 正 価 値 ア プ ロー チが 提 唱 さ れ て い る とす る御。 し か し,公 正 価 値 ア プ ロー チの 支 持 が,概 念 的 分 析 を 基 礎 に して 到 達 した 結 論 よ りも,立 証 され て いな い見 解 に基 づ か され て い る と彼 はみ る。 さ らに,彼 の 所 説 に よれ ば,公 正 価 値 ア プ ロ ー チ を支 持 す る た め に,公 正 価 値 と歴 史 的 原 価 を 比 較 す る こ と に よ り,公 正 価 値 の 優 位 性 が 説 明 され て い る と され る。 彼 は,資 産 の カ レ ン ト ・バ リュー の 測 定 に は,取 替 原 価(RC),正. 味実 現 可 能 価 値(NRV),使. 用 価 値(PV)の. 三つの測定概念が利用可能で あ. る こ とか ら,公 正 価 値 の 優 位 性 を 論 証 す る に は,公 正 価 値 測 定 が,こ れ ら三 つ の 測 定 概 念 よ りも優 位 性 を もつ 結 論 を 得 る必 要 が あ る と指 摘 す る㈹。 第 二 の 指 摘 につ いて は,公 正 価 値 測 定 が,財 務 報 告 の 利 用 者 に 目的 適 合 的 な 情 報 を 提 供 す る もの とな り得 るか と い う点 で あ る㈹。 この 指 摘 の 内 容 は,実 体 の将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー に関 す る金 額,タ. イ ミン グ,不 確 実 性 を 評 価 す るの に役 立 つ 情 報 が,公 正 価 値 測 定 に. よ って 可 能 とな るか と い う もの で あ る。 ウ ィル ソ ンの 立 場 は,公 正 価 値 測 定 が 財 務 報 告 の 利 用 者 に 目的適 合 的 な 情 報 を 提 供 す る もの で は な い とす る㈹。 その 理 由 を形 成 す る要 因 と して,高 度 に流 動 的 な 市 場 の 存 在 の 有 無 が あ げ られ て い る。 す な わ ち,金 融 資 産 は高 度 に 流 動 的 な 市 場 を有 す るの に対 して,非 金 融 資 産 に は,多. くの 場 合,か か る市 場 が 存 在 しな. い。 金 融 資 産 につ いて は,確 立 され た市 場 で 取 引 され る こ とが 想 定 され るの で,単 独 資 産 にか か わ る予 測 価 値 は存 在 す る と いえ よ う。 これ に対 して,非 金 融 資 産 の もつ 将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー は,企 業 の 収 益 獲 得 プ ロセ ス に投 入 され,他 の 資 産 と結 合 され る こ とか ら生 ず る。 したが って,非 金 融 資 産 を 公 正 価 値 で 測 定 した場 合 に は,仮 定 上 の 市 場 を べ 一 ス と. ㈹FASB,oρ.c肱,par.5. ㈹AWilson,oμcl乙,p.200. ㈹1わ. ゜ 諾. ㈹1∂. 鉱. ㈹1わ4.. 一75(75)一.
(16) 第58巻. 第1号. した 「仮 定 に基 づ く価 格 」 が 用 い られ るの で,実 体 の 将 来 キ ャ ッシ ュ ・フ ロー に関 す る予 測 情 報 とな る と い う保 証 はな い とす る指 摘 が 行 わ れ て い る囎。 第 三 の 問 題 点 の 指 摘 と して,公 正 価 値 に よ る測 定 が,企 業 業 績 に関 す る真 実 か つ 公 正 な る概 観 を提 供 す る もの とな るか 否 か につ い て は 明 らか で な い とさ れ る㈹。 市 場 価 値 は,い か に それ が 公 正 で あ って も,単 に経 済 的 な 機 会 を あ らわ す 特 定 時 点 の 理 論 的 価 格 と い う性 格 を もつ 。 現 実 に,そ の 機 会 が 講 じ られ な けれ ば,市 場 価 値 は,捨 て られ た 機 会 を 示 す も の で あ り,経 済 的 合 理 性 を もつ もの と はな りえ な い。 したが って,公 正 価 値 の 適 用 は,処 分 目的 の た め に所 有 され る資 産 の 市 場 価 値 の 測 定 に限 定 され る こ と にお いて の み,目 的 適 合 的 な もの とな り,予 測 価 値 を 有 す る もの とな る。 しか し,企 業 の 収 益 獲 得 プ ロセ ス に投 入 され,他 の 資 産 と結 合 され る非 貨 幣 性 資 産 につ いて は,資 産 の 売 却 と い う機 会 が 選 択 さ れ な いの で,個 別 資 産 の 出 口価 格 の 適 用 は,予 測 価 値 を も たな い と主 張 す る⑳。 ウ ィル ソ ンの 見 解 に は,公 正 価 値 測 定 の た め に仮 定 上 の 出 口価 値 が 適 用 され る見 方 よ り も,企 業 の と って の 価 値(valuetothebusiness)⑳. に基 づ く思 考 が,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・. フ ロ ー の 予 測 あ る い は資 金 生 成 単 位(cash-geneatingunit)の. 測 定 に と って適 切 性 を 有. す る こ とが 示 唆 され て い る㈱。. 2公. 正 価 値 測 定 に関 す る信 頼 性. 財 務 会 計 基 準 書 第157号 で は,公 正 価 値 測 定 に必 要 な イ ンプ ッ ト⑬ が 観 察 可 能 か 否 か に よ っ て,三 つ の レベ ル が 公 正 価 値 測 定 の 階層 と して 設 定 され て い る㈹。 公 正 価 値 測 定 の 階 層 の う ち,第 一 の レベ ル は,最. も高 い レベ ル の イ ン プ ッ トが 用 い られ,観 察 可 能 な イ ン. プ ッ トに基 づ か され て い る。 公 正 価 値 測 定 の 階 層 の 第 二 の レベ ル につ いて は,第 一 の レベ (6⑳1∂'4.,p.201. ⑲1わ ⑩ ⑳. 泓 砺 諾. 剥 奪 価 値 は,「 企 業 に と っ て の 価 値 」 と 同 一・の 考 え 方 で あ る 。 英 国 の 会 計 実 務 基 準 書 第16号 「カ レ ン ト ・コ ス ト会 計 」 に お い て,「 企 業 に と っ て の 価 値 」 は 資 産 評 価 基 準 と し て 適 用 さ れ た 。 下 記 の 文 献 で は,「 企 業 に と っ て の 価 値 」 の 思 考 が 説 明 さ れ て い る 。 興津裕康. 「現 代 財 務 会 計 』 森 山 書 店,平. 成 元 年,159-161頁. 。. ⑫A.Wilson,oμc肱,p.201. ⑱FASB,op.c'乙,par.21,C63. 財 務 会 計 基 準 書 第157号 で は,イ ン プ ッ ト と 観 察 可 能 な イ ン プ ッ ト,観 察 不 能 な イ ン プ ッ ト に つ い て,次 の よ う に 説 明 さ れ て い る 。 す な わ ち,イ ン プ ッ ト と は,広 義 に は,リ ス ク に 関 す る 仮 定 を 含 み,市 ト と は,報. 場 参 加 者 が 資 産 ま た は負 債 の 価 格 の 決 定 に利 用 す る仮 定 を い う。 観 察 可 能 な イ ン プ ッ 告 実 体 か ら 独 立 し て,市 場 参 加 者 が,情 報 源 か ら入 手 で き る市 場 デ ー タを 資 産 また は. 負 債 の 価 格 の 決 定 に 利 用 す る と い う 仮 定 か ら 得 ら れ る イ ン プ ッ トを い う 。 観 察 不 能 な イ ン プ ッ ト は,状 況 下 の な か で 利 用 可 能 な 最 善 の 情 報 に 基 づ き,市 場 参 加 者 に よ っ て 資 産 ま た は 負 債 の 価 格 の 決 定 に 利 用 さ れ る 仮 定 に つ い て は,報. 告 実 体 そ れ 自体 の 立 場 に た つ 仮 定 か ら得 られ るイ ン プ ッ. トを い う 。 σのFASB,op.c'乙,pars.22-31.. 一76(76)一.
(17) 財務報告にお ける公正価値 とその測定(山 口) ル に含 まれ る市 場 価 格 以 外 の イ ン プ ッ トが 用 い られ,資 産 ・負 債 につ いて 直 接 あ る い は間 接 に観 察 可 能 な イ ンプ ッ トが 適 用 され る。 第 三 の レベ ル は,資 産 また は負 債 につ いて,観 察 不 能 な イ ンプ ッ トで あ り,多 様 な 評 価 技 法 に よ る推 定 の 適 用 で あ る。 財 務 会 計 基 準 書 第 157号 で は,市 場 価 格 を直 接 的 に観 察 で き な い場 合 に適 用 さ れ る技 法 と して,三 つ の 評 価 技 法 が 説 明 され て い る㈲。 三 つ の 評 価 技 法 に関 して は,マ ー ケ ッ ト・ア プ ロ ー チ,イ. ンカ ム ・. ア プ ロ ー チ,コ ス ト ・ア プ ロー チが あ げ られ て い る。 公 正 価 値 測 定 の 問 題 点 につ いて,ウ. ィル ソ ンの 所 説 は,公 正 価 値 測 定 の 階 層 の う ち,第. 三 の レベ ル に焦 点 が 絞 られ て い る㈲。 第 三 の レベ ル の 公 正 価 値 測 定 につ い て み れ ば,そ の 測 定 は多 くの 資 産 と負 債 につ いて 行 わ れ る。 た とえ ば,企 業 結 合 にお いて 取 得 した 無 形 資 産,非 上 場 の 持 分 有 価 証 券 ・流 動 性 の 乏 しい市 場 で 取 引 され る持 分 有 価 証 券,金 融 派 生 商 品,株 式 報 酬,資 産 再 評 価 と減 損,成 長 段 階 に あ る生 物 資 産 等 にお いて,第 三 の レベ ル の 公 正 価 値 の測 定 が 行 わ れ るの で あ る㈲。 第 三 の レベ ル にお いて,市 場 価 値 が利 用 不 可 能 な 状 況 に あ るの で,仮 定 的 市 場 価 格 に よ る数 学 的 モ デル を 用 いて,公 正 価 値 が 求 め られ る こ と とな る。 第 三 の レベ ル の 公 正 価 値 測 定 に関 して,ウ. ィル ソ ンの 所 説 に よ る と,公 正 価 値 は,非 常. に多 くの 場 合,将 来 的 事 象 につ いて の 経 営 者 の 仮 定 と評 価 モデ ル に基 づ いて,市 場 の 存 在 を仮 定 した上 で の 市 場 価 格 に よ り決 定 され る とす る⑱。 第 三 の レベ ル の公 正 価 値 測 定 は, 数 学 的 モ デル を基 準 と した計 算 で あ り,観 察 され た事 象 に基 礎 を お くもの で はな い。 す な わ ち,公 正 価 値 は,現 実 の 市 場 に基 づ く現 在 的 事 象 を 描 写 した もの で はな く,将 来 的 事 象 につ いて の 経 営 者 の 予 測 に基 づ き測 定 され る もの で あ る。 彼 の 所 説 で は,公 正 価 値 を 数 学 的 モ デル に基 づ いて 決 定 す る場 合,容 認 可 能 な 範 囲 内で 適 用 され る変 数 に よ って,幅 広 い 範 囲 の結 果 が生 じる こ とが 指 摘 され て い る⑲。IASB概. 念 フ レー ム ワー ク に み られ る よ う. に,財 務 諸 表 に記 載 され る情 報 が 信 頼 性 を もつ に は,中 立 性 と不 偏 性 が 不 可 欠 な もの と し て 要 請 さ れ る もの で あ る⑳。 したが って,第 三 の レベ ル の 公 正 価 値 測 定 は,経 営 者 等 に よ る将 来 につ いて の 予 測,主 観 的 判 断 を 伴 うの で,問 題 あ りと され る。. ㈲FASB,oμc肱,par.18. ㈹AWilson,op.cl乙,pp.202-203. (77)1わ 嵐,p.202. ⑱1わ. 諾. (791わ(乳,pp.204-205. 彼 の 所 説 で は,従 業 員 の 株 式 オ プ シ ョ ン に 関 す る デ ー タ を 利 用 す る こ と に よ り,数 学 的 モ デ ル に 基 づ い て 計 算 さ れ た 価 値 は,容 認 可 能 な 範 囲 内 で 適 用 され る変 数 に よ って 異 な る こ とが 説 明 さ れ て い る。 ⑳IASB,op.c'乙,par,36.企. 業 会 計 基 準 委 員 会,財 -77(77)一. 務 会 計 基 準 機 構 監 訳,前. 掲 訳 書,77頁. 。.
(18) 第58巻. 第1号. ウ ィル ソ ンの 所 説 に よれ ば,公 正 価 値 は,知 識 の あ る 自発 的 な 買 主 と売 主,観 察 可 能 な 独 立 第 三 者 間 取 引,市 場 の 存 在 を 前 提 とす る もの で あ って,仮 定 され た 買 主 と売 主,な. ら. び に仮 定 さ れ た市 場 を 基 礎 に計 算 さ れ た価 値 で は な い と され る⑳。 彼 に よ る公 正 価 値 の 捉 え 方 で は,知 識 の あ る 自発 的 な 買 主 と売 主,観 察 可 能 な 独 立 第 三 者 間 取 引,市 場 の 存 在 が 前 提 と さ れ,「 市 場 価 値 を基 準 とす る評 価(mark-to-marketvalue)剛. に重 きが お か. れ て い るの で あ る。 ちな み に,市 場 価 値 と公 正 価 値 の 両 者 を 緊 密 に リン クす る関 係 で 捉 え る見 解 を,ペ イ トンの 所 説 に見 い だす こ とが で き る㈱。 公 正 価 値 測 定 に 関 して,市 場 価 値 を基 準 とす る評 価 に重 心 を お く見 方 は,ペ イ トンの 所 説 と親 和 性 を もつ もの と いえ る。. Vむ. び. す. 情 報 利 用 者 指 向 的 会 計 に お いて は,会 計 情 報 の 質 的 特 性 を 目的 適 合 性 と信 頼 性 にお き, 意 思 決 定 有 用 性 との 関 連 に お いて 資 産 ・負 債 中心 観 が 展 開 され て い る。 資 産 ・負 債 中心 観 を重 視 す る理 由 と して,会 計 上 の 関 心 の 焦 点 が,プ. ロ ダ ク ト型 市 場 経 済 か ら フ ァ イ ナ ン ス. 型 市 場 経 済 に移 動 した こ とが あ げ られ る。 包 括 利 益 概 念 の 採 用 は,収 益 ・費 用 中心 観 か ら 資 産 ・負 債 中心 観 へ の 推 移 の 証 左 を 示 す もの と いえ よ う。 デ リバ テ ィ ブ,固 定 資 産 の 減 損 等 の 会 計 上 の 問 題 に対 応 す る に は,収 益 ・費 用 中心 観 に基 づ く伝 統 的 会 計 で は限 界 が あ る と して,財 務 会 計 審 議 会 等 の 基 準 設 定 機 関 は,資 産 ・負 債 中心 観,な. ら び に資 産 と負 債 の. 測 定 の た めの 公 正 価 値 の 適 用 を 支 持 す るの で あ る。 IASB概. 念 フ レー ム ワー クは,意 思 決 定 有 用 性 と受 託 責 任 の二 つ を 財務 諸 表 の 目的 と し. て あ げて い る。 近 年 の 基 準 設 定 機 関 の 動 向 を み れ ば,意 思 決 定 有 用 性 と受 託 責 任 の う ち, 意 思 決 定 有 用 性 に財 務 報 告 目 的 の 重 心 が お か れ,意 思 決 定 有 用 性 と将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 予 測 の 関 連 性 が重 視 され て い る。 意 思 決 定 有 用 性 と測 定 概 念 の 関 連 に つ い て み る と,将 来 的 な 意 思 決 定 が 会 計 上 の カ レ ン ト ・バ リュー の 測 定 に結 びつ くこ と に よ り,時 価 概 念 に重 き を お くこ と にな る。 会 計 上 の カ レン ト ・バ リュー の 測 定 に は,公 正 価 値 概 念 が. ⑳A.Wilson,oμc肱,p.202. (82)1わ1紘,p.203. ⑬W.A.Paton,CostandValueinAccounting,7加Jo配r副 上 記 の 論 文 は,下 記 の 文 献 に 収 録 さ れ て い る 。 H.F.Taggart,Pα'oηoη. げAcco研. 珈c第March1946.. パcco槻 伽g361θc忽Wr痂g3(ゾW.A.Paton,TheUniversityof. Michigan,1964,pp.481-490. ペ イ ト ン に よ る 会 計 上 の 価 値 概 念 に つ い て は,下. 記 の 拙 稿 を 参 照 され た い 。. 山 口 忠 昭 「会 計 上 の 価 値 概 念 に 関 す る 考 察 一 ペ イ ト ン の 所 説 を 中 心 と し て 一 」 『商 経 学 叢 」 第 53巻 第3号(平 成19年3月)。. 一78(78)一.
Related documents
See Notes 6 and 7 for further information about fair value measurements of cash instruments and derivatives, respectively, included in “Financial instruments owned, at fair
The table below shows the fair value and fair value hierarchy for those assets and liabilities not carried at fair value but for which fair value is disclosed in the notes.
• Intrinsic or Fundamental Value • Fair Value under State Statutes • Fair Value for Financial Reporting.. Fair
The reporting entity’s policy for determining when transfers are recognized for this disclosure must be consistent with Level 1 / Level 2 transfer disclosure noted above. Below is
With regard to the measurement of financial liabilities designated as at fair value through profit or loss, IFRS 9 requires that the amount of change in the fair value of the
Fair value is the price that would be received to sell an asset or paid to transfer a liability in an orderly transaction in the principal (or most advantageous) market at
The table below presents, by level within the fair value hierarchy, total financial instruments owned and financial instruments sold but not yet purchased, at fair value, and
See Note 6 for further information about fair value measurements of cash instruments included in “Financial instruments owned, at fair value” and “Financial instruments sold, but
